春の味覚
 土曜日、いつもは遅い目覚めのマナが珍しく早く起きてきて、
 「いい天気だねぇ。」とボソッと言う。俺はだるい体でうつらうつらしていた。春の空気は柔らかい蒲団みたいである。このままあと何時間でも寝られそうな気分。で、マナが入ってきたのにも、マナの呟きにも気付かない振りをしていた。すると、
 「聞こえない振りしてるねケダ。そんじゃあ、」と言って、マナは俺の毛を掴んで、引っ張って、表に出て、傍にあったロープに俺の毛を結んだ。
 「何しやがる!」と俺はだるい声で精一杯叫ぶ。
 「これからピクニックに行くんだよ。」
 「行きたかったら、一人で行きゃあいいだろ!」
 「アンタも一緒に行くの。野山に春の味覚を採りに行くんだから、アンタの鼻が必要なの。弁当も作ったんだよ。採った美味しいものは今夜の肴だよ。」
 ユーナも気が強い方であったが、マナはそれに輪をかけている。断るのは至難の業。それに、「弁当」と「今夜の美味しい肴」にも心動かされた。で、出かけた。
   −−−ある日のマナとの会話−−−
語り:ケダマン 2007.3.16 次のケダマン 前のケダマン 最初のケダマン ユクレー島
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