衣食足りて ユイ姉が来た。マナがそろそろだから、店の手伝いってことらしい。来て早々カウンターに立っている。娑婆で飲み屋のママをやっているので、慣れたもんだ。 「店の手伝いなら、来週、ユーナが帰ってくるそうだぜ。」 「ユーナは冬休みの間だけさあ、私はもっと長くいようと思っているわけよ。」 「だな。乳飲み子を抱えてはマナもカウンターには立てないわな。いや、そんなこともないか、昔のお母さん達は赤子をおんぶして働いていたもんな。」 「そりゃあ、おんぶしながらでも客相手はできるけどさ、そうしなきゃあならない境遇にいるわけじゃないでしょ、マナは。」 「いやいや、今ちょっと想像してみたんだけどな、赤子をおんぶしてそこに立っているマナをだ。なかなかイイ感じだぜ、貧乏だけど幸せですみたいな。」 「昭和30年代の風景だね。私が小学校の頃だよ。我が家も貧しかったけどね、みんなよく笑っていたね、暖かかったよ。人の心が優しかった時代だね。」 「仰るとおり、昔の方が心は豊かだったような気がするな。物が溢れて大量消費するにつれて、人間はケチになってるな。衣食足りて礼節を忘るる、だな。」 −−−ある日のユクレー屋の情景−−− |
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