長い長い滑り台
 戻ってから二週間ほどになるマナは、元気である。お腹のふくらみもほとんど目立っていないので、今までと全く変わりは無いような感じである。
 「一時期、ちょっとつわりが酷かったけどね、でも今は、全然大丈夫。」とのことだ。普通に働いて、普通に食べて、普通に飲んでいる。
 「まあ、なんだ、おめぇも初産じゃないんだしな。年増の余裕ってわけだな。」
 「まあね、年増は余計だけどね。気持ちはゆったりしてるね。」
 「無事に産まれてくるかなあ、なんて不安も無いの?」とユーナが訊く。
 「不安?・・・全く無いってわけじゃ無いけどさ、将来不幸なことがあるかも、なんて考えていたら、そう考えている今が不幸でしょ。そして万一、将来不幸なことがあったらさ、今も将来も不幸になるじゃない。だからさ、将来は幸せが待っているって思っていた方がいいのさ。そしたらさ、今が幸せだし、あと何ヶ月かしたら、もっと楽しいことが待ってるんだよ。わくわくするような長い滑り台に乗っているようなもんさ。」
 「そうかあ、わくわくするんだ。楽しい滑り台なんだね。」
 「そう、丘の上から海岸まで続くような長い長い滑り台さ。楽しいさあ。」
   −−−ある日のユクレー屋の情景−−−
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