ヌカキビ・ハイキビ
 数年前、岡山を旅した時、岡山名物というキビダンゴを食べた。キビダンゴの入っている箱には桃太郎の絵が描かれていた。「おー、他所の島へ行って、その島に住む人々を殺戮して、そこの宝物を奪ったというあの悪名高き桃太郎さんは岡山の出身であったか!」と思い、「桃太郎さん桃太郎さんお腰につけたキビダンゴのキビダンゴは岡山のキビダンゴのことであったか」と思う。その時のキビダンゴは、白玉粉で作った団子に黄粉をまぶしたようなもの。「おー、キビ(黍)とはこういうものであるか」と思う。

 今回、ヌカキビ、ハイキビを調べていたら、それらはイネ科のキビ属であることが判った。キビ属のキビとは黍のことである。黍は、沖縄では渡名喜島で生産されている。数年前に渡名喜島を訪れたとき、渡名喜名産の黍餅を食べた。黍餅は表面だけで無く、中も黄色かったと覚えている。岡山のキビダンゴとは違っていた。
 岡山のキビダンゴは吉備団子と書く。山陽地方の古名が吉備であったことによる。桃太郎さんが悪行を働いた頃の昔は黍を使ったらしいが、今は白玉粉、砂糖、水飴などを材料とするとのこと。白玉粉なんて上等の食物は、昔は無かったとのこと。
 ちなみに、沖縄の基幹作物サトウキビはキビ属では無く、サトウキビ属となっている。

 ヌカキビ(糠黍):雑草
 イネ科の一年生草本 北海道以南、南西諸島、台湾、インド等に分布 方言名:なし
 キビダンゴ(黍団子)のキビと同属で、花穂が細く弱々しげで、花はごく小さい。小さな花が細かい粒に見え、それが糠の細かさに似ているところからヌカキビという名前。
 ヌカ(糠)は、「穀物、主に玄米を精白する際に生ずる、果皮・種皮・外胚乳などの粉状の混合物」(広辞苑)のこと。
 やや湿り気のあるところでよく見かけるとのことだが、私の職場では陽の当る乾燥した場所にあった。葉や茎が薄く細いので柔らかい感じがする。根元から何本もの茎を散開させて、地面を這うようにして、途中から立ち上がる。高さ30〜70センチほど。


 ハイキビ(這黍):雑草
 イネ科の多年生草本 四国九州以南、南西諸島などに分布 方言名:ナジチュー
 キビダンゴ(黍団子)のキビと同属で、茎の下部が地面を這うような形状となるところから這う黍で、ハイキビという名前。
 海岸近くでよく見かける(私もそのような場所で何度も見ている)が、いたるところに生えるとのこと(私は、いたるところでは見ていない)である。地下茎が縦横に伸びて、どんどん広がり、一度蔓延ると駆除の難しい強害草として知られている。海岸近くの知人の家の花壇にこれがあった。頼まれて駆除しようとした。地面を掘ると、食べても美味しいのではないかと思われるほど真っ白な地下茎が出てきた。地下茎は主に花壇の縁沿いを何本も走っていた。引き抜くのに力が要った。面倒な作業であった上、地下茎は取っても取っても、いくらでも出てきた。途中で諦めた。
 高さ40〜100センチ。茎の下部は地面を這うように伸びて、途中から立ち上がる。

 根

 キビ(黍・稷):作物
 イネ科の一年生作物 インドの原産とされている 方言名:マージン
 果実が黄色いところから黄実(きみ)となり、それが変化してキビとのことらしいが、キビには黄の他に赤、白、黒などもあるとのこと。黍という漢字には、暑い夏でも育つイネ科の植物という意味があるらしい。
 「インドの原産とされ」は広辞苑にあり、他の文献には「ユーラシア大陸の原産とされているが、詳しくは不明」とあった。いずれにせよ、古くから中国にあり、主要な穀物として栽培されていたとのことである。倭国においても五穀のひとつにも数えられているキビだが、現在ではほとんど栽培されていないらしい。
 沖縄では粟国島や渡名喜島が主な生産地となっている。渡名喜島の土産にキビ餅があった。現地では餅にする他、米に混ぜて炊いて食べるらしい。
 記:島乃ガジ丸 2006.9.25  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
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