イヌノフグリ/オオイヌノフグリ
 類は友を呼んで、私の高校時代の友人の多くは、その頃、勉強が好きでは無かった。おそらくそのほとんどが以来ずっと好きでは無く、今でも好きでは無いと思う。そして、好きで無かったお陰で、総じてディキランヌー(出来ない人)でもあった。彼らが今でもディキランヌーかどうかについては名誉に関わることなので、これ以上言及しない。
 その中の一人、Hは、印刷関連の商売をやっているのだが、彼には読めない漢字が多くある。漢字が読める、及び、書けるという知識と技術は、彼の商売に必要なものだと思われるのだが、ディキランヌーだった友人たちの誰よりも、彼は劣っている。それでも、彼の商売は続いている。もう25年ほどになる。知識や技術よりも、人柄とか誠意とかいったものが商売にはより必要であるのかと、彼を見ていてつくづく思う。
 そんな彼に国語の問題。「御不浄」の読みと意味を答えよ。
 まあ、たぶん、答えられないだろう。正解は「ごふじょう」。トイレのことを日本語では便所と言うが、便所を丁寧に言うと、「御不浄」となる。
 もう一つ、「陰嚢」の読みと意味を答えよ。
 これはもしかしたら、その方面の話の好きな彼なので答えられるかもしれない。正解は「いんのう」、あるいは「ふぐり」。俗語のキンタマ(金玉)を日本語では睾丸(こうがん)と言うが、それを包んでいる皮を含めた全体が「ふぐり」となる。睾丸より、もちろん金玉より「ふぐり」の方がオブラートに包まれたような言い方で、柔らかく、上品に聞こえる。言葉だけで無く実物も「あなたのフグリ、可愛い」と上品に見えてくる。

 イヌノフグリもオオイヌノフグリも、その名前でまったく助かったのだ。これが、イヌノキンタマとかオオイヌノキンタマなんて名前だったら、若い女性たちが彼らの名前を呼ぶことを嫌がり、植物学を学ぶ女性から見捨てられてしまったであろう。

 オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢):野草
 ゴマノハグサ科の二年生草本 ヨーロッパ原産 方言名:なし
 イヌノフグリに比べて大きいのでオオイヌノフグリという名。イヌノフグリについては下記にある通り、犬の金玉袋ということ。
 帰化植物で、明治初期には日本に入ってきたようである。沖縄へはいつごろ入ってきたのか文献に記載は無かったが、少なくとも今ではもう、道端にも野原にも畑にもあちこちでよく見かけられる。果実が犬の金玉ということであるが、それよりも、小さいけれど特徴のある形をした花が可愛いので、より目立って、それで覚えてしまう。
 高さは15〜30センチ。花は冬〜早春に咲く。淡い青色の小花。

 実

 ちなみに、
 イヌノフグリ(犬の陰嚢):野草
 ゴマノハグサ科の二年生草本 方言名:なし
 金玉袋のことを正式には陰嚢と書き、インノウと読むが、古い読み方ではフグリと言う。犬の陰嚢は丸いのが2個引っ付いてポコポコとしている。本種の果実の形がそれに似ているところからイヌノフグリという名前となっている。なお、人間の金玉はポコポコとした感じでは無い。少なくとも、犬の金玉は人間のそれより可愛いみたいである。
 高さ5〜20センチほど。花は葉の腋から出る。小さく紅白色で冬から早春に咲く。果実は扁円形、縦にくぼみがあって2つに分かれているように見える。それが金玉。
 記:島乃ガジ丸 2006.5.9  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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