コヘンルーダ
 薬草研究家のH爺様とは7〜8年ほど前に知り合っている。知り合った頃はそう頻繁に会ってはいない。年に3〜4回程度だったと記憶している。でももう、既にその頃、Hさんが薬草の勉強しているって事は知っていた。Hさんの書棚にその関係の本が並んでいるのを見ていたし、Hさんの口からもいくつかの薬草の名前を聞いていた。
 サクナ(ボタンボウフウ)、クヮンソウ(アキノワスレグサ)、イーチョーバー(ウイキョウ)などといった有名どころなら私も知っていたが、「イシャナカシグサって面白い名前の優れた薬草も沖縄にあるんだよ」とある日、教えてくれた。

 イシャナカシグサは方言名で、イシャ(医者)ナカシ(泣かせる)草という意。この草があれば医者は要らない、よって医者は商売あがったりとなり泣く、ということではないかと思われる。あるいは、医者が悩むような難しい病気が、この草のお陰で治った。「おー、なんという奇跡!」と医者が感動し、涙したということかもしれない。・・・ではないか、ウチナーンチュのことだもの、そこまで深い心使いはないかも。
     
 過日、薬草研究家のH爺様と「沖縄長生薬草本社」なる会社を訪ね、そこの農場を見学させていただいた。Hさんはセッコツソウが目当てであったが、農場を歩いている時、1つの看板が私の目についた。それには世界一の薬草と書かれてあった。その看板から少し離れた所に実物はあった。開花期は初夏とあるコヘンルーダ、花が咲いていた。 
 コヘンルーダ(こへんるーだ):薬草
 ミカン科の多年草 地中海地方原産 方言名:イサナカシグサ
 名前の由来、ヘンルーダという同科同属の近縁種があり、それのより小型のものだからコ(小)がついたと思われる。ヘンルーダについては『薬用植物大事典』に「ポルトガル名のヘン・ルタから転訛したといわれ、ヘンは冠詞、ルタは古いラテン語のルウ(草)から出たものという」とあった。広辞苑に「wijnruit」とオランダ語表記があるが、ヘンルーダと読めそうもない。ポルトガル語とは違うようだ。
 方言名のイサナカシグサは解り易い。イサ(医者)ナカシ(泣かす)草という意。これがあれば患者は医者を必要としない、医者は儲からないので泣くということだと思う。
 葉に薬効があり、薬草として栽培される。その効果は、「打ち身、神経痛の際その患部を葉の汁で湿布する」、「ヒステリーや不眠の際に生の葉の汁をお湯で薄めて飲む」などとある。ただ、「多量に使用すると中毒する」ともあった。
 高さは30センチほどになり、草全体に独特の匂いがある。開花期は初夏、集散花序を出し黄色の花を着ける。陽光地を好み、陰地だと枯れてしまうとのこと。 
 花
 
 近縁種のヘンルーダは、 
 ヘンルーダ(へんるうだ):薬草
 ミカン科の多年草 南ヨーロッパ原産 方言名:不詳
 名前の由来は、『薬用植物大事典』に「ポルトガル名のヘン・ルタから転訛したといわれ、ヘンは冠詞、ルタは古いラテン語のルウ(草)から出たものという」とあった。学名の属名はRutaとなっている。ルタはルーダに近いが、別名にルーとかコモン・ルーとかあるように、Rutaの発音はルーに近いようだ。別名にルー、コモン・ルーとある。
 高さは50〜100センチ。花色は黄色で開花期は6〜7月、花弁に鋸歯がある。 
 実
 ちなみに学名は、
 コヘンルーダ Ruta chalepensis
 ヘンルーダ Ruta graveolens
 記:島乃ガジ丸 2019.6.30  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
 『花の園芸大百科』株式会社主婦と生活社発行
 『新しい植木事典』三上常夫・若林芳樹共著 成美堂出版発行
 『花合わせ実用図鑑』株式会社六耀社発行
 『日本の帰化植物』株式会社平凡社発行
 『花と木の名前1200がよくわかる図鑑』株式会社主婦と生活社発行
 『熱帯植物散策』小林英治著、東京書籍発行
 『花卉園芸大百科』社団法人農山漁村文化協会発行
 『ニッポンの野菜』丹野清志著、株式会社玄光社発行
 『藤田智の野菜づくり大全』藤田智監修、NHK出版編
 『やんばる樹木観察図鑑』與那原正勝著、ぱる3企画発行
 『熱帯の果実』小島裕著、新星図書出版発行
 『熱帯花木と観葉植物図鑑』(社)日本インドアグリーン協会編、株式会社誠久堂発行
 『ハーブを楽しむ本』川口昌栄編集、株式会社集英社発行
 『琉球薬草誌』下地清吉著、琉球書房発行
 『沖縄やんばるフィールド図鑑』 湊和雄著 実業之日本社発行
 『グリーン・ライブラリー』タイムライフブックス発行
 『ネイチャーガイド 琉球の樹木』大川智史・林将之著、株式会社文一総合出版発行
 『つる植物』沖縄都市環境研究会著 (有)沖縄出版発行
 『熱帯アジアの花』ウィリアム・ウォーレン著、チャールズ・イー・タトル出版発行
 『講談社園芸大百科事典』野間省一編集、講談社発行
 『沖縄の薬草百科』多和田真淳・大田文子著、那覇出版社発行
 『沖縄食材図鑑』田崎聡著、有限会社楽園計画発行
 『自分で採れる薬になる植物図鑑』増田和夫監修、柏書房株式会社発行
 『家庭で使える薬用植物大図鑑』田中孝治著、社団法人家の光協会発行
 
 
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