ヘチマ
 朝寝坊して、慌てて出勤する場合はクラッカーの4、5枚を食って、さっと歯を磨き、顔を洗って家を出る。コーヒー飲む暇は無い。雲子する暇も無い。
 そういった日はたいてい、昼休みに家に帰って、飯を食い、コーヒーを飲み、ゆっくり雲子する。が、まれには腸がその気にならなくて、雲子をその日1日忘れることがある。
 私の部屋のトイレは和式。毎朝の排泄物で健康状態を知ることができる。1日忘れた後の翌朝、私の雲子は大量となる。体の調子がいいときは驚くほどの量になる。
 糞一斗タンクの水も間にあわず
なんてことになる。その場合は洗面器を使って流す。今のアパートに住んで11年の間に5、6回はそういうことがあった。糞一斗はもちろん大げさな言い方だが、タンクの水が間にあわなかったことは本当のこと。洗面器の水を2杯使うこともあった。

 痰一斗糸瓜の水も間にあわず
 これは正岡子規の句。ヘチマの茎から採れる水は咳止め薬に用いられる。子規は肺結核を患っており、ヘチマ水の世話になっていたようだ。痰一斗ももちろん大げさな言い方であろう。だが、ヘチマの水も間にあわないというのは、いくら薬を飲んでも咳が止まらないということ。苦痛で悲惨な状況だが、なにかその運命を諦観している雰囲気もある。
 ヘチマの水を咳止めに使った経験は、私には無い。そうしている人を見たことも無い。ヘチマのタワシは、見たことはあるが、それを愛用している人というのは知らない。ヘチマは、沖縄ではもっぱら食用なっている。ほとんどの食堂にヘチマの味噌煮というメニューがある。独特の香りと甘味があり、私は大好きで、旬の夏にはよく食する。
 ヘチマ化粧水というのがあって、それは私の愛用品となっている。アフターシェーブローションの替わりに使っている。値段が安くて刺激が無くて無香料、という理由から使っている。刺激が無くて無香料、・・・枯れたオジサンにはピッタリだ。

 ヘチマには、「くだらないもの」という意味もあるようだ。広辞苑に2つ。
 糸瓜の皮:何の役にも立たないもの。また、つまらぬもののたとえ。
 糸瓜野郎:ぶらぶらしている役立たずの男をののしっていう語。
食べて美味しく、薬にも化粧水にもタワシにもなる、役立つヘチマ。何だか可哀想。

 ヘチマ(糸瓜):野菜
 ウリ科の一年性蔓植物。原産分布は東南アジア。方言名:ナーベーラー
 名前の由来、『薬用植物大事典』によると、漢名が糸瓜で、イトウリが略されてトウリとなり、大言海には「トは伊呂波歌ニテ、へトちの間(ま)ナレバ云フ」と記されているとあった。へとちの間だからヘチマ瓜、瓜が省略されてヘチマということらしい。
 未熟果を食用とする。熟すると繊維が強くなり、網目状に全体に広がる。とても食えたものではない。まあ、それがタワシになる所以でもある。
 巻髭で他の物に絡みつつ、蔓をいくつも分枝しつつ大きく広がり、1株からたくさんの実が収穫できる。民家の庭先では棚に這わせたりフェンスに絡ませたりして、実がぶら下がるようにした栽培をよく見るが、農家では地ナーベーラー(地面に這わせる)が多いようだ。花は黄色、本土では夏の開花、沖縄では3月から咲いている。
 茎から採った水をヘチマ水といい、咳止め薬や化粧水に用いる。

 花と実
 記:島乃ガジ丸 2005.4.27  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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