クリ
 倭国は梅の季節になったとのこと。梅の次は桜、今年は暖かいのでソメイヨシノが咲くのも早かろう。春に倭国を旅すると、ソメイヨシノは大きな楽しみの一つだ。樹冠を花が覆う満開の時も、桜吹雪の時も、沖縄では観ることのできない景色だ。
 秋の紅葉も沖縄には無い景色だ。いや、「無い」ということは無い。ハゼノキ、ナンキンハゼなど寒くなると色付く木はいくつかある。でも、色付き方が控えめだし、周りに青々とした樹木がいっぱいあるので、山を彩るなんてことにはならない。
 ということで、倭国へ旅するのは沖縄には無い花や紅葉を観るという楽しみがある。

 クリの木も沖縄にはほとんど無い。文献に載っている写真は沖縄のものであったが、私は、沖縄では見たことが無い。友人同僚に訊いても、「無い」とのこと。
 2006年の6月、四国を旅した際、四万十川の川沿いを下流に向かって16キロメートルほどを歩いた。途中たくさんの写真を撮りながら5時間ほどの歩き旅。
 その時撮った写真の中にクリの木がある。それまで、クリの木の実物を見たことの無かった私だが、それを「クリかも」と思った。おそらく、本か何かの記憶が残っていたのだろう。目的地に着いて、そこにあった食堂に入って、店の人に、
 「途中、ちょっと甘い匂いのする白っぽい花を咲かした木がいくつもあったけど、あれはクリの木ですか?」と訊いた。「そうです。」とのこと。
 「沖縄では見ないんですよ」、「沖縄からいらしたんですか?」、「はい」とここからしばし会話となる。土地の人と会話する、これも旅の楽しみの一つ。

 クリ(栗):果樹・公園・用材
 ブナ科の落葉高木 北海道石狩以南〜九州、朝鮮に分布 方言名:なし
 名前の由来は資料が無く不明。『漢字源』によると、栗という字は、「くりの実がはじけてざるのような形をしたいがが木の上に残っているさまをあらわす。」とのこと。クリの木が先にあって、それを表す漢字が後からできたわけだ。当然だが。
 沖縄の植物を紹介してある文献を、私は10種類利用させてもらっているが、その内1種を除いてはどれにもクリの記載は無い。私自身も、沖縄でクリの木を見たことは無い。掲載してある『沖縄植物野外活用図鑑』も栽培植物として紹介している。その写真は本部町のものとあるが、そのような栽培ものがあったとしても稀だと思う。
 花序は穂状で、淡黄色の小さな花が多くつく。開花期は6月から7月。雌雄同株。
 果実も、それを包むイガも有名で、実物を見たことの無いウチナーンチュでもよーく知っている。収穫期は9月から10月、その頃になると、普段は天津甘栗しか置いていないスーパーに国産のクリが、イガ付のものも、剥かれたものも店頭に並ぶ。クリの実が食べて美味しいということもウチナーンチュはよーく知っている。
 高さは20mにもなり、民家の庭木には不向き。公園の緑陰樹、果実生産の栽培樹木として多く見かける。また、果実だけで無く材も有用。材は耐久性、耐湿性に優れ、建築、枕木、家具、運道具等に利用される。クリの木の座卓を昔見たことがある。

 花

 実
 記:島乃ガジ丸 2009.2.24  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
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