バンレイシ
 もう10年以上も前のことだが、知合いの庭に野球ボールくらいの大きさで、デコボコした実がたくさん生っている大きな木があって、「何ですか?あれ」と訊くと、
 「シャカトーっていうんだ。大き目のもの一つ取って食べてごらん。甘いよ。」と答える。で、お言葉に甘えて、一つ取る。半分に割ってからが食べいいというので、手で半分に割る。割る前から匂いはしていたのだが、割ると甘い匂いが強くした。中は少し黄みがかった白い果肉。黒い小さな種がいっぱいある。
 「種は食えますか?」と訊くと、「食えない」と言うので、スイカを食べる時みたいに
種ごと口に入れて、ペッ、ペッと吐き出すことにした。がぶっと齧りついて口の中に入れ
る。甘い。すごく甘い。香りも甘い。果肉はクリーミーで、まるでアイスクリームのよう
な食感。こんな美味しい果物、他にはあるまいと一瞬は思った。であったが、種が多過ぎ
て、口の中でそれを選り分けるのは面倒な作業であった。しかも、果肉周りの袋が硬く、
気になる。袋と種を選り分けて吐き出し、果肉だけを飲み込むのは至難の業であり、そう
できるまでに5、6分はかかりそうに思われた。「えーいっ!鬱陶しい」と、果肉を一口も飲み込まないまま、私は口に入れたものをそのまま吐き出してしまった。
 訊くと、家の人も面倒臭くてほとんど食べないのだそうだ。「それを早く言えよ」なのであった。それからしばらくして、この木は、撤去されることになった。

 バンレイシ(蕃茘枝):果樹
 バンレイシ科の常緑中木 中央アメリカ原産 方言名:シャカトー
 茘枝(れいし)は先に紹介したライチのこと。蕃(ばん)は外国のという意。外国からきたレイシということだが、でも、レイシにはぜんぜん似ていない。
 果実はデコボコした球形。小さな果実がいくつも集まった集合果といわれるもの。小さな果実にある果肉はクリーミーで非常に甘く、香りも高い。しかしながら、小さな果実にはそれぞれ種があるので、結果、種が多く、また、小さな果実同士の間には膜があって、その膜はクリーミーとははるか遠く、口の中で気になる。
 高さは5mほどに留まる。庭木としても使える大きさだが、美味しくても食べ辛いということからあまり人気は無い。種のほとんど無い品種もあるということを、知合いの造園家に聞いたことがあるが、まだお目にかかっていない。
 方言名のシャカトーは釈迦頭(しゃかとう)の意。果実が釈迦(仏像)の頭に似ているところからきている。バンレイシよりもシャカトーの方が言いやすく覚えやすいので、沖縄ではシャカトーで通る。「バンレイシって何?」と思うウチナーンチュの方が多かろう。

 実

 ついでに、
 チェリモヤ:果樹
 バンレイシ科の常緑中木 中南米原産 方言名:なし
 学名がAnnona cherimolaで、英語名はそこからきてCherimoyaとなり、和名もチェリモヤとなる。バンレイシと同じく、果肉はクリーム状で甘く、芳香を持っている。

 アテモヤ:果樹 →記事(沖縄の飲食「もっとアイスクリーム」)
 バンレイシ科の常緑中木 園芸品種
 バンレイシとチェリモヤの交配種で、最近から出回るようになった。
 記:島乃ガジ丸 2005.12.4  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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