ノイバラ
 先々週のこと。金曜日の職場に出ていつものようにガジ丸の記事を書いていると、従姉がやってきて室内の掃除を始めた。大きなゴミ袋を片手に、要らないものと思われるものを片っ端から袋に詰め込んでいった。私の傍まで来て、紙切れなどあれこれ袋に放り込んだ後、ボロボロのスケッチブックに目を留めた。私のスケッチブックだ。
 私のスケッチブックにはガジ丸、モク魔王などのキャラクターや、ガジ丸の島のイメージなどが描かれてある。私の想像の世界がいっぱい収められている。
 「このスケッチブック、捨てていいの?」と訊くので、
 「いや、それには俺のアイデアがいっぱい詰まっているんだ。」と応えると
 「何が俺のアイデアよ、アンタのアイデアなんて、どうせたいしたもんじゃ無いでしょうが。」と言って、そのスケッチブックをポンっと私のところへ放った。
 ガジ丸にたびたび登場する従姉は、元々が姉御肌の性格で、私の兄弟や他の従姉妹連中は皆、彼女の子分のように扱われていた。それでいて面倒見が良く優しいので、皆から慕われてもいた。今でもたぶん、慕われている。その親分に「テメエのものなんて、大したもんじゃ無え」と言われたら、「そうかもしれませんが、あっしにとっては大事なもの、どうか捨てねぇでくだせぇ」と頼むしかない。腐っても鯛、歳取っても親分。
 しかし、その子分も最近は時々反抗する。若い頃は美人だったが、今はそうでもないので反抗もしやすくなったのだ。何かものを頼まれると、若い頃はいくらか無理してでもきいていたのだが、この頃は無理をしなくなった。あっさり断ることがたびたびある。
 金曜日の職場から従姉の家までは歩いて5、6分の距離にある。何ヶ月か前のこと、従姉に「頼みがあるので、ちょっと来て」と呼ばれたので、行った。頼みというのは駐車場にアーチを作ってくれないかということだった。蔓バラを這わせたいと言う。一通り話を聞いた後、私は「忙しいので、できない。」とあっさり断った。従姉はムッとした顔をしたが、「パイプ加工の専門業者に頼んだら」と私がアドバイスすると、「そうするわ」と、彼女もまたあっさりと応じた。お互い歳取って、それなりに丸くなっているのだ。

 それから数ヵ月後、金属製のきれいなアーチが完成した。アーチが完成して一ヶ月も過ぎた頃、従姉の家を覗いたら、きれいな花をいくつも咲かせている蔓状の植物がアーチの全面を覆っていた。青い空に、見事に映える白い大きな花。枝に棘があってバラの種類ではあろうと推測できたが、花はバラの形では無い。花びらが一重か二重しかなく、それも大きく横に開ききっている。「何なのこれ、いいね。」と訊くと、従姉は、いかにも誇らしげな顔をして、「ノイバラよ。きれいでしょ。」と答えた。機嫌が良かった。
 ノイバラ、調べると野薔薇、つまり、よく耳にするあのノバラ。シューベルトだったかの歌曲にある「わらべは見たり 野中のバラ」のノバラ。ヨーロッパのノバラと日本のノバラは多少違うだろうが、少なくとも音はノバラで文字は野薔薇。音でも文字でもごく親しみ深い花である。子供の頃から知っている名前だが、見るのは、私は初めてだった。

 ノイバラ(野薔薇・野茨):添景・壁面・パーゴラ
 バラ科の落葉低木 原産分布は日本各地 方言名:無し
 日本でもっとも多く見かける野バラで、これを基本種とした園芸種もあり、バラの台木としても利用される。枝はよく分枝し、長く伸びるが、フェンスやパーゴラなどの伝うものが無ければ高さ1〜2mに留まり、横に広がる。バラ同様、枝には棘がある。
 基本種は、直径2cmほどの芳香のある白色の花で、円錐状にかたまって咲かせるらしいが、従姉の庭のものは直径8cmほどあり、かたまってではなく、ぽつんぽつんと咲かせていた。本土での開花は5月から6月とあったが、沖縄では4月から咲いている。
 記:島乃ガジ丸 2005.4.23  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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