イノモトソウ
 数年前、今住んでいるアパートに越してから数年後のこと、断水を経験した。想定外の断水だったのでちょっと慌てた。トイレが水洗だ。1回目はタンクに溜まっていた分で済んだが、2回目から雲子が流せなくなった。大変困った。風呂場兼トイレに常備してある40リットル入りバケツにいくらか水は入っている。それが飲み物以外に使える唯一の水なので、3回目が無いことを祈って、それを使う。
 断水が想定外だったのには理由がある。水不足であるという情報がなかったからだ。この時の断水は水不足のせいでは無く、台風のせいであった。台風で浄水場が停電して、送水できなくなってしまったのであった。幸いにも、3回目の前に断水は解消された。
 断水は、私が中学高校生の頃までは毎年のようにあった。それは停電では無く、直接的な水不足のせい。ダム設備が不十分だったためと思われる。子供の頃、我が家には井戸があった。高校生の頃は、学校の近くに井戸があり、そこへ水を汲みに行ったことがある。井戸は、今は懐かしい景色の一つであるが、私にとって身近なものであった。
 今回紹介するイノモトソウは、漢字で井口辺草と書く。ネットのサイトには井の許草と表記しているものもあった。いずれにせよ、井戸の傍にある草という意味だ。井戸にお世話になっている頃の私は、植物に興味が無かったので、その頃の井戸の傍にイノモトソウがあったのかどうかについては、まったく記憶に無い。

 イノモトソウ(井口辺草):野草
 ワラビ科の多年生常緑シダ 東北地方南部以南、南西諸島、他に分布 方言名:なし
 イノモトソウという名前は、広辞苑に井口辺草という字があてられていた。井戸口の辺りに生えている草という意味であろう。その通り、そのような辺りでよく見られる。漢字は他に鳳尾草ともあった。鳳は「古来中国で尊ばれた、想像上の瑞鳥」(広辞苑)のことで、イノモトソウの見た目が、鳳の尾のようであるといったことであろう。
 鳳がその一字で「想像上の瑞鳥」を表すということを、私は今回初めて知った。よく見聞きする二文字の鳳凰は「古来中国で、麒麟・亀・竜と共に四瑞として尊ばれた想像上の瑞鳥」(〃)のこと。これについては私も以前から知っていた。が、「雄を鳳、雌を凰という」(〃)ことについては、これもまた、今回初めて知った。
 広辞苑にイノモトソウ科とあったが、宇和島の公園の名札にはワラビ科イノモトソウ属とあり、また、私が参考にしている文献でもワラビ科となっていた。
 半日陰となるやや湿った場所、石垣の間などに多く生息する。葉は、細いのとやや太目の2種があり、一種は胞子葉で、もう一種は栄養葉とのこと。葉軸に翼がある。リュウキュウイノモトソウにはそれが無い。両者の違いはそれで判別できる。


 リュウキュウイノモトソウ(琉球井口辺草):野草
 ワラビ科の多年生常緑シダ 方言名:ツルンガニクサ
 イノモトソウという名前は上記の通り、井戸口の辺りに生えている草という意味。本種は琉球列島以南に生息するところからリュウキュウとついている。
 私の住む近辺でイノモトソウは発見できていないが、本種はあちらこちらでよく見かける。琉球という名前がつくだけに、環境により適しているのかもしれない。 
 高さは30センチほど。低地でも山地でも普通に見られる多年生常緑シダ植物。葉はイノモトソウと同じく、細いのとやや太目の2種があり、一種は胞子葉で、もう一種は栄養葉とのこと。イノモトソウの葉軸に翼があり、本種にはそれが無いという他に、モサモサした感じになるイノモトソウに比べ、本種は葉がまばらであるという違いがある。
 記:島乃ガジ丸 2007.6.25  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
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