ボウラン |
去年の7月、東京で小物屋を営みつつ、週末は女庭師として働いているTさんと一緒に焼き物で知られる読谷村座喜味を訪ねた。焼き物を仕入れるのが目的のTさんに私が付いて行ったのである。東京に住む知人に紹介されたTさん、この時が初対面であったが、女の一人庭師という生き方に興味を引かれ、すぐに親しくなった。 焼物の里でTさんの仕入れが終わった後、仕入れ先の女将さんに紹介されて、シーサー作りで現代の名工の称号を持つ窯元を訪ねた。窯の主は新垣榮用さん。 「まあまあ、休んで行きなさい」と言い、庭のテーブルに案内し、お茶とお菓子まで御馳走してくれた。柔和な顔をした心優しい翁であった。 庭のテーブルの上はトタン屋根がかかっている。その屋根を支える柱の1本に私の目がいった。ランらしき花が咲いている。ランの中でも有名で、私もよく知っているカトレアに似ているが、カトレアよりはずっと小ぶり。花よりも全体の姿に特徴があり、それはカトレアとは全く似ていない。葉が無い、茎だけが何本も伸びている。 「これ、ランだとは思いますが面白い形ですね、何というのですか?」と訊いた。新垣翁は老人とは思えぬ素早い反応で即座に、「ボーランだよ」と答えた。 「さすが陶芸で名を成した人、頭も鋭敏なんだ」と感心しつつ、「ボーラン、棒蘭ってことだろうな、茎が棒に見えるってことだろうな」と私は推理していた。 ボウランの方言名についてはどの文献にも記載は無かったが、新垣翁が発音した通りのボーランで良かろうと私は思い、ここでは勝手にボーランとした。 ボウラン(棒欄):花壇・鉢物 ラン科の多年草 近畿南部以南、南西諸島、台湾に分布 方言名:ボーラン 名前の由来を明示した資料は無いが、葉が棒状なのでボウラン(棒欄)、で間違いないと思う。茎も細い円柱形で、葉鞘に覆われ茎の表面は外から見えないとのこと。 山地に生え、日当たりの良い岩や木の幹に着生する着生ラン。茎の長さは15〜40センチほど、棒状の葉は多肉質で、長さ6〜12センチ、径3〜4ミリ。 茎のやや上部から短い花茎を出し、1〜5個の花をつける。花は横向きで半開する。花には独特の臭気がある。基本種の色は黄緑色、唇弁には紫黒色の斑紋がある。開花期は7月から8月。園芸品種が多種あり、写真のものはその一つ。 ちなみに学名は、Luisia teres (Thunb.) Bl. 花 |
記:島乃ガジ丸 2012.2.26 ガジ丸ホーム 沖縄の草木 |
参考文献 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行 『花の園芸大百科』株式会社主婦と生活社発行 『新しい植木事典』三上常夫・若林芳樹共著 成美堂出版発行 『花合わせ実用図鑑』株式会社六耀社発行 『日本の帰化植物』株式会社平凡社発行 『花と木の名前1200がよくわかる図鑑』株式会社主婦と生活社発行 『熱帯植物散策』小林英治著、東京書籍発行 『花卉園芸大百科』社団法人農山漁村文化協会発行 |