トベラ
 毎週金曜日に通っている職場は宜野湾市にあり、首里石嶺のアパートからの通勤、その道程のちょうど中間辺りに琉大(琉球大学)がある。4、5年前までは通勤前に、年に数回は寄り道していた。私は琉大の卒業生ではないが、大学は一般に開かれているので、何も咎められることなく入れる。目的は、ピチピチの女子大生を見る・・・のでは無く、図書館。調べものがあったときに、そこの書籍やインターネットを使わせてもらっていた。
 鉄道の無い沖縄では車が主な移動手段となっている。琉大の学生たちも車で通勤する者が多い。したがって、広いキャンパスにはあちこちに駐車場が設けられている。よって、いつ行っても駐車に困るようなことはない。私はたいてい図書館からある程度離れた駐車場に車を停める。そして、図書館まで歩く。ちょっとした散歩を兼ねてのこと。
 キャンパスには緑が多いので、歩いていて気持ちいい。しかし、その広大な面積を、いちいち細かいところまでは管理できないのだろう、植栽された植物の量と同じくらい雑草が蔓延っている場所も多く、また、植栽された植物には剪定が必要な物も多くあるが、それらも手入れが行き届いているとはあまり言えない。伸びたい放題に枝を伸ばしている樹木が多くある。業者を雇って、手入れさせる金が十分には無いのだろう。
 そんな中、建物の傍に植栽されている低木に、こんもりと茂って、きれいにまとめられた形をしている樹木があった。トベラだった。白い花が咲いている。近寄ってみると甘い匂いがした。トベラの花に芳香があることをこの時知った。

 私の部屋の、ベランダ側の窓の傍、前に紹介したカイエンナット(パキラ)の木のさらに窓に近いところに、高さ5mほどもある大きな木がある。年中葉を茂らせている。この木が何なのか、つい最近まで迷っていた。葉の形はトベラであったが、トベラが高さ5mにもなるとは私の知識に無かったので、ずっと悩んでいたのだ。
 その木が先月、花をたっぷり咲かせた。トベラの花だった。「おっ、やはりトベラか?」と思って、ベランダに出て写真を撮る。花は、記憶の奥に眠っていた(匂いの記憶は強く残るらしいので、私のボケた脳味噌も何とか覚えていたようだ)琉大のトベラと同じ匂いがした。で、調べる。『沖縄の都市緑化植物図鑑』に、「別種にタイワントベラがあるが高木となる」とあった。ベランダの傍の樹木がタイワントベラであるかどうかは、トベラとタイワントベラの違いなどが文献に無いので確認のしようがない。で、先日、家賃を払いに行ったついでに、大家さんに訊いた。この木の持ち主である大家さんは、
 「さー、何かねえ。もう、いつ植えたかも覚えて無いさあ。トベラって言われても判らんさあ。タイワントベラかもしれないと言われてもねえ。木陰作ってくれるし、花は咲くし、台湾も沖縄も近いし、どっちでもいいんじゃないの。」という答えだった。

 トベラ(海桐花):生垣・添景
 トベラ科の常緑低木。原産分布は関東以南、沖縄、台湾、他。方言名:トゥビラギ
 文献には高さ3mとあり、広辞苑にも高さ1〜3メートルとある。その高さを無視すれば、芳香のある白色5弁の筒型の花、へら型の縁がビラビラした葉は大家の庭のトベラもまったく同じ。耐潮風性が強いので海岸地に自生しているのもよく見る。成長は速いが、萌芽力が強く、強剪定に耐えるので、刈込み物や生垣に適する。
 本土での開花は初夏とあったが、沖縄での開花期は2月から4月。

 花
 記:島乃ガジ丸 2005.4.3  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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