ショウジョウカ
 ある日、街の小さな内科病院に一人の男が入ってきた。受付も兼ねている看護婦の明菜は、入ってきた男を見て驚いた。名前や年齢などをカルテに記入するのももどかしく、男の話も半分聞き捨てるようにして、医者の元へ走った。
 「先生、急患です。何だかわかりませんが、大変みたいです。」
 「ほう、どんなショウジョウか?」
 「少女じゃありません。大人の男の人です。」
 「アホ、どんな症状か?と訊いている。」
 「すみません、顔全体に血管が浮き上がっているんです。」
 「む、それはもしかしたら、ついこの間学会で発表された病気かもしれない。そうか、ついにそれが沖縄にも上陸したか。」
 「発表されたって、何という病気なんですか?」
 「ショウジョウカ症候群というらしい。」
 「少女化症候群?男が女の子みたいになるってことですか?」
 「アホ、猩々花だ。どうして君はショウジョウが少女に聞こえるんだ?」
 「だって、私、昔、少女Aで有名だったんです。」と明菜は言って、「わーたーし、少女えーー」と一節歌った。・・・なんてことが、どこかの星であったかもしれない。

 植物のショウジョウカの花は、その花弁に濃紅色の線が枝分かれするように幾筋も走っていて、グロテスクな方向に想像力を働かせば、皮を剥いてむき出しにした血管のようにも見える。もちろん、そうでない方向に想像力を持っていくこともできる。その場合は、濃紅色の線でデザインされたランプシェードのように見える。

 ショウジョウカ(猩々花);添景・生垣
 アオイ科の常緑低木 ブラジル原産 方言名:チョーチンハナグヮー
 『沖縄園芸百科』に載っていた写真と『沖縄植物野外活用図鑑』に載っていた写真は同じもののように見えるが、前者はアブチロンと紹介され、学名はAbutilon hybridum。後者はショウジョウカと紹介され、学名はAbutilon striatum Dicksonとなっている。品種が多いらしいので、ちょっとした違いがあるのだろう。ちょっとした違いは、ここでは気にしないので、ガジ丸の写真は、覚えやすい方のショウジョウカとしておく。ショウジョウカの猩々(赤毛をした怪獣)は紅いということ。アブチロンは属名から。方言名のチョーチンハナグヮーは、提灯(ちょうちん)みたいな形の花ということ。
 品種が多く、花色は黄色から濃紅色まで、葉の形は卵形のものや、カエデ状のもの、斑入りのものなどがあるとのこと。本種の花は、橙色に濃紅色の線が入った模様。その線が血管のようにも見えて、ちょっとグロテスクな印象も受ける。花弁を内側に巻き込んで下垂するところが、方言名の由来となっている提灯形。
 開花期については、「冬季を除き開花するが、春から初夏にかけて多く見られる」と『沖縄園芸百科』にあり、「開花期は夏〜冬」と『沖縄植物野外活用図鑑』にあった。
 高さは2mに留まるが、成長が速いので、形を整えるために適宜剪定を行う。
 同じアブチロン属で沖縄に自生しているものがあるとのこと。和名をイチビといい、学名はAbutilon theophrash。これは、花は黄色で上向きに咲くらしい。

 花
 記:島乃ガジ丸 2006.4.30  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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