ハリツルマサキ
 才色兼備を妻に持つ友人のMは、彼もまた若かりし頃は文武両道、おまけに外見も秀でており、モテモテの好青年であった。が、年月とは恐ろしいもので、そんな彼も今じゃ腹の出たオヤジ。言い寄る女を右によけ、左にかわしてきたことも昔話となって、酒の席での肴としかならなくなった。とはいえ、仲間内では今尚イイ男のトップクラスにいる。
 数年前のこと、そんな彼から「庭の整理をしたいと思っている。手伝ってくれ。」との要請があった。生垣を設け、西日の射すダイニングの窓の傍に緑蔭樹を植え、要らない草木を撤去したいとのこと。いくつかアドバイスを与え、知合いの造園業者を紹介した。

 緑蔭樹を植えたいというダイニングの窓の傍、建物から2、3m離れて境界塀がある。塀は高さ1mほどのブロック塀で、その手前にはハリツルマサキの生垣がある。ハリツルマサキは良く育っており、ブロック塀の持つ殺風景な雰囲気を消してくれている。塀の向こうの隣地は地面が下がっており、平屋の隣家はその屋根が少し見えるだけ、さらにその向こうは視界を遮るものは無く、ぐーっと開けている。遠く(よく覚えていないが、おそらく4、500m先)に海が見える。その景色を夫婦はいたく気に入っている。
 窓の傍の席を私に勧めた。「どう?」と訊く。確かに良い景色であると、私もまた思った。ハリツルマサキが景色の邪魔をしていない。邪魔どころか、窓の下くらいの高さで緑の大地を演じている。近くの大地は濃い緑色。そこから見える遠くの大地は薄い緑色。さらにその向こうに南の島特有の青い海がある。海の上には青空が広がっていた。いかにも沖縄の景色なのであった。

 ハリツルマサキ(針蔓柾・または針蔓正木):添景・生垣・盆栽
 ニシキギ科の常緑低木。原産分布は奄美以南、台湾、中国。方言名:マッコー
 潮風に強く強剪定に耐えるので、海岸近くの低木生垣に向く。半蔓性で茎は匍匐するので高さは1m程度で止まる。日当たりを好むが、木陰でも十分育つので、高木の根締めとしても使い良い。大気汚染にも強いので交通量の多い箇所の生垣としてもよい。沖縄では古くから庭木、盆栽樹として親しまれてきた。小さな棘があるが、さほど危険では無い。
 別名グンバイウメヅルとも言い、沖縄の海岸地域のサンゴ礁石灰岩地域に自生しているのがよく見られる。沖縄では代表的な盆栽樹木となっている。
 針(棘)があって半蔓性で、葉がマサキに似ているのでハリツルマサキという名だが、マサキは同じニシキギ科でも属が違い、葉の大きさも樹形も異なる。種が鳥によって運ばれ、植えたわけでも無いのに庭のあちこちから勝手に芽を出すナンクルミーの代表。
 記:島乃ガジ丸 2005.6.4   ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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