春爛漫
 ユクレー屋は、夜は飲み屋だが、昼間は雑貨屋兼茶店となっている。その時間は、村人達が買い物に来たり、ユンタク(おしゃべり)しに集まったりする。なので、店は朝から開いている。昼間は主にウフオバーが店番をして、マナは主に夕方からの担当なのだが、それでもマナは、たいてい10時頃には起きて、オバーを手伝っている。
 俺の午前中は、概ね店の片隅で寝ているかグダグダしている。この頃はグダグダに適した気持ちの良い日が続いていて、今日もそんな陽気だ。で、いつものようにグダグダしていると、朝から元気なマナが、店の全ての窓とドアを開け放して、
 「いい天気だねぇ、暖かいねぇ、春だねぇ。」と大きな声を出した。畳の上に寝そべっていた俺は、「煩せぇなあ」と思いつつ、顔を上げる。確かに良い気候であるが、そんな大声を出すなんて、まるで少女みたいだと思った。で、
 「春爛漫ってか。ほっ、ほっ、ほっ、いいねぇ、恋する女は。」とからかった。
 「バカ言ってんじゃないよ。あんたもほら、いつまでもグダグダしていないで、さっさと起きな。ほれ、ポチ、散歩の時間だよ。リード要る?」と反撃された。
 「バカ言うんじゃ無ぇ、ワン。」と俺は一吼えした。全く、春爛漫。
   −−−ある日のユクレー屋の情景−−−
語り:ケダマン 2008.3.14  次のケダマン 前のケダマン 最初のケダマン ユクレー島
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