努力もしない凡才
 ユイ姉に「あんた、下手ねぇ。」と言われたことに発奮したのか、マナは帰ってきたその日からピアノの練習を始めた。音楽のことをよく知らない俺には、「熱心に」かどうか不明だが、1日3時間ほどはピアノを掻き鳴らしていた。
 音楽のことをよく知らない俺であるが、マナのピアノの音が「心地良いもので無い」とは感じていた。「マナは練習不足じゃなくて才能不足」というのが、ゑんちゅ小僧の評価であった。で、その3時間の内、俺の我慢は1時間、2時間は外で過ごす。しかし、それもほんの三日で終わった。つまり、マナはいわゆる三日坊主なのであった。練習してもなかなか上手にならない自分にうんざりしたものと思われる。
 そんなマナが今日は珍しく、さっきからピアノを熱心に練習している。
 「マナ、何だい今日は、やけに熱心じゃねぇか。」と訊くと、
 「うん、そろそろ皆の前で弾こうかなって思うんだけどさ、なかなか上手くならないんだよね、何でかねぇ。」と言う。「何でかねぇってオメェと」俺が言いかけたら、
 「努力もしない凡才なんだな。」とゑんちゅ小僧が小声でつぶやいた。
   −−−ある日のユクレー屋の情景−−−
語り:ケダマン 2007.10.5  次のケダマン 前のケダマン 最初のケダマン ユクレー島
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