目の前のガジャン
 いつものようにユクレー屋のカウンターで俺は飲んでいる。この頃溜息ばかりついているマナは、今日もまた、いつものように溜息ばかりついている。経験豊富な中年女といえど、恋煩いはなかなか治らないみたいである。
 グータラな俺に褒められても、ちっとも嬉しくはないだろうが、マナは働き者である。ウチナーンチュの女は働き者が多いが、マナはウチナーンチュでは無いのだが、ウチナーンチュの中に入れても、働き者の上位に置けるほどである。それが、恋煩いとなってからは、ボーっとしている時間が目立つようになっている。
 「なあ、マナ」と、ボーっとしているマナに声をかける。
 「目の前のガジャン・・・ガジャンって、ウチナーグチで蚊のことだが、目の前のガジャンは煩いと思うだろ。だけど、離れたガジャンはもっと煩いんだぜ。その辺りにいると知っていて気になるんだが、手が届かないからどうしようもないんだ。」
 「何の話なの?急に。」
 「離れていて気になるんだったら、自分から近付いてみれば、ということだ。」
   −−−ある日のマナとの情景−−−
語り:ケダマン 2007.5.25  次のケダマン 前のケダマン 最初のケダマン ユクレー島
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