ユイ姉の居場所
 「あったかいねぇ。こんだけあったかいと、心もユルユルになるね。」
 「そうだな、ユルユルになるな。」
 「って、あんた、あんたはいつもユルユルに見えるけど。」
 「見えるんじゃない、俺はいつもユルユルだ。心がユルユルなのは人間のあるべき姿だ。達観っていうか、悟りの境地っていうか、まあ、そんなもんだ。」
 「へー、そう。でも、悟りの境地があんただと、悟りたくない気分になるね。」
 「オメエよー、自分の居場所ってものがあるか?」
 「私の居場所?・・・私の居場所、そうだねぇ、私の店かな。」
 「俺には俺の居場所は決まってない。いつでもどこでも、俺の居る所が俺の居場所だ。そして、そこで常に満足できる。これがつまり、悟りってわけだ。」と、俺がちょいと胸を張って自慢げに語るのを、ユイ姉は聞いていない。窓の外を見ている。
 「私の居場所かぁ、ユルユルもいいけど・・・。」なんて呟いている。
 「オメエよー、人が真面目に話し・・・、」と、俺が言い終わらない内に、
 「帰ろ、・・・ケダ、私、帰るわ。」となった。
   −−−ある日のユクレー屋の情景−−−
語り:ケダマン 2009.3.20  次のケダマン 前のケダマン 最初のケダマン ユクレー島
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