苦い初恋 秋の陽射しは柔らかい。秋の風は爽やか。午後のひと時、庭で昼寝するのに最適の季節だ。庭のフクギの木と家の柱にハンモックを吊る。世の中に幸せの種はいろいろあるが、この季節、ハンモックで昼寝というのも上級の幸せだ。 ふわっと体を浮かせてハンモックに飛び乗りたいところだが、俺も地上の生活が長く続いて、体重が増えている。ぷかぷか浮かばなくなっている。そういえばもう、この島に居ついてから2年半になる。そろそろ離れる潮時かなぁと思う。 というわけで、いつもなら背丈の倍以上の位置にハンモックを吊るすのだが、今回は目の高さ程度にした。そして、これから幸せに浸るぞって期待を抱きつつ、ハンモックに片足を乗せた。と、その時、ユクレー屋のドアが開いて、マナの声がした。 「ケダ、あんた、ユーナ見なかった?」 「ユーナ?何でユーナがここにいる?」 「今日、ジラースーと一緒に来たんだけどね。ちょっと顔を見せて、すぐにいなくなったのさ。オバーも心配してるんだよ。苦い初恋だったみたいなんだ。」 苦い初恋という言葉に俺はちょっと驚いて、ハンモックに足が絡んだ。 −−−ある日のユクレー屋の情景−−− |
語り:ケダマン 2008.9.26 次のケダマン 前のケダマン 最初のケダマン ユクレー島 |