タンポポ
 学生の頃、1年ばかり吉祥寺に住んでいた。吉祥寺駅北口から北へ20分ほど歩いた辺りにアパートはあった。木造2階建て、四畳半一間、台所半畳、トイレ共同、風呂無しの部屋は窓も木枠でできており、隙間風が入り込んで、暖房器具がコタツしか無かった貧乏学生の冬は寒かった。沖縄からやってきて、それまであまり感じたことの無い思いが、最初の冬を体験して沸き起こった。「春よ、早く来い。」というものであった。
 東京に住んで1年後、その春がやっと来た。井の頭公園では桜が咲き乱れている。ソメイヨシノの花の見事さに感動する。この花ならば、酒飲んでドンちゃん騒ぎもしたくなるであろうと納得する。花びらが散る様も見る。桜吹雪を実感する。
 そんな時期に、もう一つ、花の見事に咲く様に感動したことがある。アパートの4、50mほど手前にちょっとした空地があった。間口10mほどのその空地がある日、金色に輝いていた。それは、「ウオー」と叫び声が出るほどに感動的な景色だった。金色は空地一面に広がって花を咲かせているタンポポであった。

 タンポポは雑草扱いされているが、私は好きな花であった。その頃覚えた唄にタンポポが歌われていて、私の頭の中でタンポポの良いイメージがいくつもできていたからだ。
 野に咲くライオンの誇り きらめくたんぽぽの花
 遠くの氷売り 小麦畑の匂い
で始まる『たんぽぽのお酒』。作詞:藤本和子、作曲:佐藤博。歌:佐藤博。
 詩は、レイ・ブラッドベリの小説『たんぽぽのお酒』を本家としている。レイ・ブラッドベリはSF、ファンタジーのアメリカの作家。私は高校の頃、SFが好きで、レイ・ブラッドベリもその短編集なら読んでいたが、長編『たんぽぽのお酒』は知らなかった。佐藤博が歌う『たんぽぽのお酒』を知った後に、小説の『たんぽぽのお酒』を読んだ。幻想的で詩的な雰囲気を持った小説ではあったが、内容に関しては良く覚えていない。私の感性には藤本和子の詩の方が合っていたようだ。私の想像力を掻きたててくれた。

 沖縄にもタンポポはあり、よく見かける。が、一面タンポポだらけというのは見たことが無い。センダングサ、ススキ、オニタビラコ、コウブシ、チガヤ、ハイキビなど他の雑草の方が強いので、タンポポは大きな群落にはなりにくいようである。
 吉祥寺の、タンポポの群落のあった空地は、奥のほうが細い道となっていて、そこから隣の路地へ抜けることができた。たまに通ることがあった。私は、さほど霊感のある方ではないが、一度その細い道を夜通ったときに、霊を、それも邪悪そうな霊の気配を感じて、怖い思いをしたことがある。体の中を何か冷たいものが通り過ぎて、その後、体が震えだし、アパートの部屋に着いても、まだ震えが止まらないという経験をした。昼間のきれいなタンポポ畑は、夜になると魑魅魍魎の棲家に変っていたようだ。震えはしばらくして止み、悪霊が取り付いた風でも無かったのだが、以後、夜そこを通ることはしなかった。

 タンポポ(蒲公英):野草
 タンポポは、「キク科タンポポ属の多年草の総称。全世界に広く分布。日本にはカンサイタンポポ・エゾタンポポ・シロバナタンポポ、また帰化植物のセイヨウタンポポなど10種以上あり、普通にはカントウタンポポをいう。」と広辞苑には書かれてある。しかし、本土ではどうか知らないが、西洋の物はどうも力が強いらしくて、沖縄では在来種がその生育範囲を狭められ、その辺でよく見られるのはセイヨウタンポポとなっている。

 セイヨウタンポポ(西洋蒲公英):野草
 キク科の多年生草本。原産はヨーロッパ。方言名:タンププ
 高さ20cm前後。低地の道端、空地などに自生する帰化植物。
 お馴染みの黄色い花、本土での開花は4月から5月と文献にあるが、沖縄では冬でも咲いている。写真は2月に撮ったもの。
 方言名のタンププは元々在来のタンポポを指しているが、帰化植物である本種も、見た目にそう変わりは無いのでウチナーンチュは気にせず、同じように呼ぶ。
 セイヨウタンポポを含めタンポポの若葉は食用となる。生食もでき、サラダにする。

 群れ
 記:2005.2.22 島乃ガジ丸  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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