シュロガヤツリ
 金曜日の職場の近くに従姉の別荘がある。別荘ができたのは10年ほど前だが、できてから2、3年の間、主(従姉の亭主)の県外転勤で、その管理を私が任せられた。
 できたばかり建物は、ある年ある日の豪雨で浸水し、その時に大変な難儀をしたこと以外には、特に面倒なことは無かった。梅雨時や夏場に時々窓を開けておかないとカビが生えてしまうこともあったが、カビ落しはさほど面倒なことではなかった。
 ところが、庭は面倒であった。広いのである。100坪以上はある剥き出しの土、そこには当然雑草が生える。夏場だと、3、4週間も放って置くと景色が変わってしまうほどに雑草が蔓延る。週末の数時間を私は雑草取りに費やした。

 ある日、池の傍に見たことのある草が生えた。確か、園芸雑誌に載っていた。シュロガヤツリである。植えてはいない。ナンクルミー(自然発生)したものである。ナンクルミーだろうが、園芸雑誌に載っているということは観賞用であろう。形もきれいなので、私はそれを抜かずに、そのままにしておいた。ところが、シュロガヤツリが頭にインプットされてしまうと、野原や道端にそれがたくさんあることに気付いた。
 それからしばらくして、従姉夫婦が一時帰省した。シュロガヤツリが野原や道端にたくさんあることに前から気付いていた二人は、あっさりとそれを引き抜いてしまった。ナンクルミーしやすいばっかりに、あえなく命を絶たれたシュロガヤツリであった。
 ※ナンクルミーはウチナーグチ(沖縄口)。ナンクルはナンクルナイサ(なるようになるさ)のナンクル。ひとりでにとか自然にとかいった意味。ミーは「芽生える」。

 シュロガヤツリ(棕梠蚊屋吊):野草
 カヤツリグサ科の多年草 マダガスカル島原産 方言名:不詳
 カヤツリグサ(蚊屋吊草または莎草)はカヤツリグサ科の一年草で、日本で普通に見られる雑草。広辞苑に「子供が茎を裂いて蚊屋を吊る形にするから」と名の由来がある。シュロ(棕櫚または棕梠)はヤシ科シュロ属の常緑高木の総称で、葉が掌状をしている。本種はカヤツリグサ科で、葉がシュロのように掌状をしているので、この名がある。
 この植物を雑草とするには少し抵抗がある。昔、園芸雑誌に載っているのを見ている。元々は観賞用に栽培されたものらしい。であるが、今は野生化して道端や空地の雑草となっている。沖縄だけでなく、本州から九州にかけてもそのようなことらしい。
 カヤツリグサは高さ30センチほどらしいが、本種は高さ100〜150センチほどになる。同属にはあの有名なパピルスがある。パピルスは和名をカミガヤツリといい、古代エジプトで紙の材料として用いられた植物。

 花

 群落

 カヤツリグサ(蚊屋吊草・莎草):雑草
 カヤツリグサ科の一年草 世界の熱帯から温帯まで分布
 広辞苑によると、「子供が茎を裂いて蚊屋を吊る形にするから名づける」とある。蚊屋を久しく見ていないので、蚊屋を吊る形がどんなものだったのか思い出せない。
 野原や道端に普通に見られる雑草。高さは30センチ程度。葉は3葉。

 カミガヤツリ(紙蚊帳吊):紙材・鑑賞用
 パピルスという名で知られる。パピルス(papyrus)はまた、本種の茎から作られた紙のことも指す。その紙は「古代エジプトで、紀元前30世紀頃から使用され」(広辞苑)たとのこと。和名のカミガヤツリのカミ(紙)もおそらくそれにちなんでいる。
 現在は主に観賞用に栽培されているとのこと。高さは250センチに達する。

 それぞれの学名は、
 シュロガヤツリ Cyperus alternifolius L.
 カヤツリグサ Cyperus microiria Steud.  
 カミガヤツリ Cyperus papyrus L.
 記:島乃ガジ丸 2007.1.6  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
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