ススキ
 中秋(旧暦8月)の満月の夜は、沖縄でも月見をする。沖縄の月見にはだんごやおはぎでなく「フチャギ」と呼ばれる餅を供える。倭の国と同じなのはススキを飾ること。
 テレビや本、雑誌で見る月見のススキは穂が開いていて、いかにもススキという感じがしたが、沖縄のススキは違う。子供の頃、月見の日になると母親から「その辺からススキを1本刈っておいで」とお使いを頼まれた。その辺りといっても、実家は那覇の住宅地にあり、草の生えた原っぱは2、300m先の、今は天久新都心となって宅地開発されているが、その頃は外人住宅地であった辺りまで歩かなければならない。
 テレビや本で見るススキをイメージして行くと、ススキは探せない。旧暦8月15日は新暦でいうと9月の中ごろ辺り。沖縄はまだまだ夏。ススキの穂は開いていない。沖縄の15夜に飾るススキは葉っぱだけのただの草となる。最初の頃はどれがススキか判らなくて、他のイネ科の雑草を間違えて持って帰ったりした。往復500mを徒労した。

 沖縄のススキの穂が開くのは概ね11月頃から。ススキの穂が開いた後にサトウキビの穂が開く。同じ頃、水辺の葦の穂も開く。
 「月ぬかいしゃ」という八重山民謡がある。
 つき ぬ かいしゃ とぅかみっか みやらび かいしゃ とぅうななち
と始まる。月の美しいのは十三夜、少女の美しいのは十七歳、といった意味。女の美しさのピークが十七歳なんてとんでもないこと。世の二十代以上の女性のためにも、私は断固として異議を唱える。が、旧暦9月、つまり晩秋の月は、確かに十三夜がいいかもしれない。旧暦の9月13日は概ね新暦10月の中旬、10月の暦にはその日、行事欄に十三夜と書かれており、今宵は十三夜の月ですよと知らせてくれている。
 陽の落ちるのが早い秋の夜、澄んだ空に浮ぶ月を眺めながら、酒を飲む。涼しい風が吹く。酒は、歯に染み透る白露のごとく、しみじみ旨い。沖縄の月は晩秋が良い。
 ススキの穂が開くにはまだ少し早いが、中にはせっかちなススキもいて、穂の開いたススキが見つかる可能性もある。年によっては十三夜が10月下旬(昨年は10月26日)になることもある。その場合は、穂の開いたススキを飾れる可能性が高くなる。

 ススキ(薄):雑草
 イネ科の多年生草本。北海道から沖縄まで各地に分布する。方言名:シシキ
 本土のススキはどうか知らぬが、沖縄のススキは高さ2〜3mにまでなる。本土では秋の風情を演出するススキだが、ちょっとのっぽ過ぎて見た目かわいくないし、何年も経って太くなった株は、人力によるスコップで掘り取るには大変な労力を必要とするし、沖縄では概ね厄介者だ。私はたいてい、ススキを見つけたら小さいうちに除去している。
 茅葺(かやぶき)に用いるのは本土ではこのススキらしいが、沖縄ではチガヤを使う。チガヤは高さ1m程度にしかならず、屋根葺きの材料として扱いやすかったのだろう
 別名「尾花」と言う。「幽霊の正体見たり枯尾花」の尾花。秋の七草の一つ。
 文献によると、本土での開花、穂が開くのは8月から10月。しかし、沖縄では11月から1月となっている。

 穂

 ちなみに、 →チガヤ
 記:島乃ガジ丸 2005.1.16  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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