シマキツネノボタン
 多少ニュアンスは違うが、天気雨のことを沖縄ではカタブイ(片降り)という。カタブイは概ね、空の一部は晴れているが、一部には雨雲があり、地上の一方は晴れているが、もう片方は雨が降っている状態を言う。片方が降っているからカタブイ。
 「天気雨」を広辞苑でひくと、「日が照っているのに降る雨。日照り雨。」とあり。また、「狐の嫁入り」ともある。「狐の嫁入り」は私も若い頃から知っていて、それは概ねウチナーグチ(沖縄口)の「カタブイ」と同じであると認識している。
 「狐の嫁入り」を広辞苑でひくと、1に「狐火が多く連なって嫁入り行列の提灯のように見えるもの」とあり、2に「日が照っているのに雨の降る天気。」とある。狐のつく天気を表す言葉は他に「狐日和」があり、「降ったり照ったりして定まらぬ日和」とある。
 このように和語にはキツネのつく言葉がいくつもある。ところが、沖縄語にはキツネのつく言葉は無い。じつは、キツネそのものが言葉として無い。なぜなら、沖縄にはキツネが生息しないからだ。キツネがついた言葉があったにしても、それは和語であり、沖縄語では無い。古い時代に倭国から入ってきて、そのまま名前が使われたものとなる。

 和語にはキツネのつく植物名もいくつかあって、狐の絵筆、狐の茶袋はきのこ類。狐薊はキク科、狐の剃刀はヒガンバナ科、狐の孫はキツネノマゴ科、狐の手袋はゴマノハグサ科のジギタリスの別称、そして、狐の牡丹はキンポウゲ科のそれぞれ草本類。

 シマキツネノボタン(島狐の牡丹):野草
 キンポウゲ科の一年生草本 本州西部以南に分布 方言名:ハチグミグヮー
 キツネが住みそうな野原に生え、葉がボタンに似ているのでキツネノボタンという。頭のシマ(島)は、沖縄産の意味かと思ったら、(キツネノボタンに比べて)小さいという意味だと『沖縄植物野外活用図鑑』にはあった。方言名のハチグミは初米、八米なども考えられるが、撥米とし、果実の形がハチャグミ(ポン菓子を固めた沖縄の菓子)に似ているからだと私は想像する。グヮーは小さいという意。
 道端、原っぱ、庭、畑などによく見られる野草。茎が匍匐して、節から根を出して広がり、地面を覆う。沖縄では冬、小さな黄色の花を咲かせる。ネットで調べてみると、本土では数が減ってきているようで、山口県などでは絶滅危険種に含まれていたりする。

 キツネノボタン(狐の牡丹):野草
 キンポウゲ科の二年生草本 日本全土に分布 方言名:なし
 キツネが住みそうな野原に生え、葉がボタンの葉に似ているのでキツネノボタンという名前。湿気のある道端、原っぱなどによく見られる野草。高さ20〜50センチ。
 黄色い小さな花は春から秋にかけて咲く。果実は丸く、全体に鉤型の棘がある。文献の写真を見る限り、シマキツネノボタンにそっくり。葉の色艶、形がいくらか違う。方言名が無いので、沖縄には個体数が少ないと思われる。有毒植物とのこと。
 記:島乃ガジ丸 2005.10.23  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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