ノアサガオ
 『タンポポ』の項でも述べたが、中学から高校、大学にかけて、私はSFが好きで、SF小説をよく読み、SF映画も多く観た。この世のこととは思われぬ話、現実とは遠くかけ離れた話などが好きで、自分自身、自分の妄想の中に遊ぶこともよくあった。
 オジサンになった今でも妄想癖はいくらか残っている。夜でも昼でも、音楽を聴きながら酒を飲みボーっとしていると、しらぬまに『千と千尋』のような世界に入っていく。しかし、もう十分に経験があるので、妄想は妄想と認識して楽しむことができている。
 中学の頃、多感という点では人生のピークとでも言うべき頃、体中の皮膚の下を何十匹という小さな芋虫が這いずり回るという妄想にたびたび襲われて、あまりの気味悪さに閉口したことがあった。それと同じ頃にもう一つ、よく見る妄想があった。
 大きな木に、花を咲かせた蔓植物が絡みついている。その傍を通ると突然、何本もの蔓が伸びてきて私の体に絡みつき、自由を奪う。妄想の世界で私は少女に、しかも、その頃好きだった子に変っている。少女は蔓植物に弄ばれ、蔓の籠の中に閉じ込められる。夢判断をすれば、思春期の少年の性的欲求の現れなのかもしれないが、けして淫靡というわけではなかった。痛めつけられ、殺されるかもしれないという怖いものであった。
 その蔓植物の蔓枝はアケビのような太さの強靭なものであったが、咲いている花は朝顔のようなかわいい花。その頃、蔓というと朝顔しか浮かばなかったからであろう。

 妄想に出てきたもののように丈が高く、朝顔のような花をつける蔓植物がある。蔓枝を縦横無尽に伸ばし大きな木を覆っているのをよく見かける。この蔓植物、沖縄口(ウチナーグチ)でヤマカンダと言う。ヤマンバの親戚みたいな恐ろしげな名前だ。妄想に出てきた蔓の名前にぴったり。だが、これは樹木や電信柱は襲うが、人を襲うことはない。
 昨年の秋、友人のNと久高島を歩いている時
 「あ、朝顔が咲いている。」とNが言って、指差した。彼の指の先にあったのは、そのヤマカンダであった。紫色の朝顔そっくりの花を咲かせている。
 「違う。あれはヤマカンダ。和語で言うとヤマカズラだ。朝顔じゃない。」と言う私に、Nはしつこく「朝顔でしょう」と問い返したが、私はきっぱり「違う」と答えた。が、もしかしたらあれは、朝顔が野生化したものかもしれないと不安に思って後日、調べた。
 栽培されるアサガオは、ニホンアサガオとセイヨウアサガオに大別され、概ねニホンアサガオはヒルガオ科アサガオ属、セイヨウアサガオはヒルガオ科サツマイモ属となっている。もちろん、サツマイモはセイヨウアサガオと同じサツマイモ属。そして、ヤマカンダはアサガオ属では無く、サツマイモと同じサツマイモ属であった。
 植物学的にどうかは知らぬが、私の感覚では、属が違えば違う植物だ、と言っていい。なわけで私は、訂正とお詫びのメールを鹿児島のNに送らずに済んだのであった。

 ノアサガオ(野朝顔):野草・蔓植物
 ヒルガオ科の多年生草本。原産分布は紀伊半島以南、沖縄等。方言名:ヤマカンダ
 山でも里でも、特に樹木の生い茂った場所などであればどこにでも見られる雑草。木に巻きついて樹上まで上り、全体を覆う。その先に電線があれば電線にも絡みつく。朝方は青紫、夕方には赤紫に変わるラッパ状の花を年中咲かせている。
 方言名のヤマカンダは山蔓(やまかずら)の沖縄読み。
 上述のようにアサガオには二種ある。ニホンアサガオは熱帯アジア原産の一年生草本。

 群落
 記:2005.2.22 島乃ガジ丸  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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