ホウキギク
 30代の頃、好きな女には花束を贈るのを趣味としていた。私はけしてカッコイイ男では無いし、ダンディーな男でも無く、キザな男でも無い。ネクタイを締めるのが嫌いで、通勤服も作業服なので、スーツ姿なんてことは冠婚葬祭以外には無い。つまりは、花束を抱えることが絵にならない男なのである。それでも、花を贈っていた。
 今でも、基本的には同じ考えでいるのだが、人にモノを贈るときは、食い物や飲み物などのそのうち消えて無くなるものを贈りたいのである。長く残るものでもせいぜい、一年後には消える運命のカレンダーくらいだ。その場その時の思いは、その場その時のモノであるという”逃げ”の戦法。いわゆる、証拠を残さないということ。
 花屋で花束を頼むと、バラやユリといったメインの花に、たいていカスミソウを添えてくれる。で、カスミソウは私にとって馴染みの花となった。

 ある年ある日、野原にカスミソウのような花がいっぱい咲いていて、「あっ、カスミソウが自生している。」と思って、そう口にしたら、周りにいた(誰だったか忘れた)人の失敗を面白がるお姉さまたちに笑われたことがある。今から思えば、それはおそらくホウキギクだったのであろうが、もしも、ホウキギクとカスミソウが同科同属なのであれば笑われる謂れは無い。「似たようなもんじゃないか、笑いやがって」と文句言ってやろうかと思うのだが、誰だったか相手を覚えていないので、悔しいが、できない。
 などと考えながら、ホウキギクを調べ、カスミソウも調べる。結果、この二つ、まったく違う植物。ホウキギクはその名の通りキク科で、カスミソウはナデシコ科であった。文句言う相手が判らなくても、悔しがるには及ばなかった。

 ホウキギク(箒菊):野草
 キク科の二年生草本 北アメリカ原産 方言名:トウチグサ
 姿が箒に似ているのでホウキギク。方言名のトウチグサは『身近な植物図鑑』にあったが、宮古諸島の多良間の言葉らしい。沖縄本島での呼び名は記載がない。本種のように外来種の場合は、地域によって名前をつけたり、つけなかったりするのであろう。
 高さは1mくらいになる。茎が細く、葉も細長いのでヒョロヒョロとした感じ。茎が分かれながら伸びていくので、上に行くに従って茎の数が増える。で、箒を逆さまにしたような形になる。たくさんの茎の先に白色から淡紫色小さな花をつける。遠目には、花つきの疎らなカスミソウ(ナデシコ科)にも見える。
 開花は、本土では8月から10月頃らしいが、沖縄では期間が長い。文献に記載が無いので正確ではないが、6月頃から11月頃まで咲いている。

 花

 ついでに、
 カスミソウ(霞草):切花
 ナデシコ科の一年生草本 多年生の宿根霞草もある コーカサス・小アジア原産
 白、紅、桃色などの小さな花。花が群れで咲く様が霞のように見えるのでこの名。
 記:島乃ガジ丸 2005.10.25  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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