ヨモギ
 何ヶ月か前に友人から「U屋のママさんが亡くなった」と電話が入った。ママさんはU屋の他にIという小さな居酒屋も持っていた。元々はIが本店みたいなものだったが、立ち退きか何かでもうだいぶ前に店じまいしていた。居酒屋Iは、ママさんの人柄の良さと雰囲気の良さで、まだ酒を飲んではいけない歳の頃から、首里高校の遊び仲間が集まる飲み屋だった。
 海亀の刺身、サメの刺身などの珍しいものがあり、沖縄の伝統料理(私はこの店で豆腐ヨウの旨さを知った)もあり、日常に食される沖縄の家庭料理もあった。皆、旨かった。私は、ママさんのその料理の旨さに惚れていたのだが、友人たちの中には、青春の悩み(主に恋)を相談する人もいたらしい。「すごく世話になった」と言って、友人の幾人かは告別式に出かけた。

 空きっ腹に酒を私は好まないので、腹が減っている時は飲む前に少し腹ごなしをする。居酒屋Iで飲み会があった場合はほぼ決まって注文するものがあった。「フーチバージューシー」、倭の国の言葉で言うと、ヨモギ雑炊。
 Iのフーチバージューシーは、豚肉、中味(豚の腸)、フーチバーが具として入っていて、最後に生卵を落とした味噌仕立て。コクがあって、なおかつサッパリしていた。フーチバーの匂いや苦味が苦手な人でも食べることができた。私は、大好きだった。
 アパートの畑にヨモギが生えている。地下茎で増えるので、放っておくとまたたく間に増える。でも、そのヨモギは食べる気がしない。猫の糞尿まみれになっているからだ。

 ヨモギ(蓬):野菜、薬草
 キク科の多年生草本。国内では本州以南〜南西諸島まで分布。方言名:フーチバー
 フーチバーはジューシー(雑炊)以外に、味噌汁の具としても使う。臭みのある魚汁、牛汁などにはよく用いられる。山羊汁には欠かせない。
 本土ではヨモギ餅として食用にするが、料理に用いられるというのを聞かない。何故かと調べてみると、本土のヨモギと沖縄のそれとでは種が違うらしい。・・・らしい、で終わろうと思ったのだが、頑張って、図書館へ行き、調べた。本土で餅に使われるのは、いわゆるヨモギ、学名はArtemisia princes Pamp. 沖縄で料理に使われるのはニシヨモギと云い、学名はArtemisia indica Willd.とのこと。ニシヨモギはアクも苦味もヨモギより少ないので、料理に使えるらしい。
 ヨモギは、生の葉が皮膚病や傷の止血、乾燥葉を煎じて飲むと神経痛、リューマチの薬になる。沖縄ではもっとも親しまれている薬草となっている。
 方言名のフーチは艾(モグサ)のこと。フーチバーはモグサの葉という意味になる。名の通り、モグサはヨモギから作られる。中国では、ヨモギのことを艾と書く。
 記:島乃ガジ丸 2004.11.3  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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