トウガン
 亭主を一人残して、アメリカから姉が引き上げてきた。年老いた両親の面倒を見るためである。今月(9月)初めから実家に住まいを移し、父と暮らすようになった。
 父の偏食については姉も昔からよく承知しているのだが、それでも、
 「はっさもう、あの人、食べないものが多くて困るよ。」と愚痴をこぼす。実の娘でさえが困るのである。父の食べるものはそれほど限られている。
 野菜については先ず、生は食わない。つまり、サラダを食わない。が、レタスやキャベツでも炒めたり煮込んだりすると食べる。シマナー、サントウサイなどの菜っ葉を豚肉と一緒に煮たオーハンブシーは好物である。つまり、煮込んだ野菜は食うのである。

 トウガンを生で食べるって、話には聞いたことがあるが、私はその経験が無い。トウガンはたいてい煮て食べている。トウガンは奥床しいので、いろんな味に染まる。味に個性が無いといえばそうであるが、その食感には揺ぎ無い個性がある。口の中に入れ、軽く噛むとふにゃっと崩れ、染まった味がじわーっと広がる。美味いと思う。
 そんなトウガンが父も好物である。ソーキ汁のような塩味のスープ、鶏汁のような醤油味のスープ、肉汁(豚汁のようなもの)のような味噌味のスープなどで煮込まれたトウガンが大好きみたいである。そういった汁物の具材に私も夏場はトウガンを多く用いるが、冬場はダイコンにすることが多い。それが旬だからである。父はしかし、冬場でもトウガンを望む。私はダイコンも美味いと思うのだが、柔らかさではトウガンが上。その柔らかさが父に好まれているみたいである。

 トウガン(冬瓜):果菜
 ウリ科の蔓性一年草 熱帯アジア原産 方言名:シブイ
 トウガン(冬瓜)は、その名前から冬野菜と勘違いされるが、夏の野菜である。20年ほど前、有機農業をやっている知人から聞いて私は知った。『沖縄園芸百科』に名前の由来がある。「夏に収穫した果実は、冬まで貯蔵できることから」とのこと。
 沖縄では馴染み深い野菜の一つである。物心付いた頃から私も口にしている。シブイという方言名を、トウガンという和名よりも先に私は覚えている。シブイという呼び名の由来は不明だが、おそらく”渋い”ということでは無い。けして渋くないから。
 花はカボチャのそれに似て、いかにもウリ科の形をしている。雄花雌花共に黄色。
 果実は品種によって球形、楕円形とあるらしいが、沖縄で見るものは楕円形がほとんどである。貯蔵期間の長さも特徴だが、その大きさもまた目立つ。近所のスーパーに並ぶ野菜の中では最も大きい果菜である。『沖縄園芸百科』には「長さ30センチ〜130センチ、重さ3キロ〜15キロ」とあった。1メートルを超えるような大きなものを私は見たことはないが、自分で育てた(肥料無し)ものでも40センチ、5キロほどはあった。
 沖縄の代表的な汁物料理、ソーキ汁、足ティビチ汁、肉汁(豚汁のようなもの)などに使われ、日常の味噌汁の具材としても利用される。煮物料理でもよく見る。

 花

 肉汁冬瓜入り
 記:島乃ガジ丸 2007.9.16  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
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