シマニンジン
 子供の頃から食い物の好き嫌いが少なかった私だが、それでも、多くの子供がそうであるように、野菜好きというわけでは無かった。ニガナ、ゴーヤー、ピーマン、ニンジン、セロリなど、出されれば残さず食ってはいたが、なるべくなら出さないで欲しいなぁとは思っていたのだ。
 「出されて残さず食わない」野菜もあった。ニンジンの煮たものだ。祖母や母の料理では無く、レストランの西洋料理で出される砂糖とワインで甘く煮た(有名な料理名だが、今その名が思い出せない)もの、フライドポテトと一緒にメインディッシュの添え物として出されるそのニンジンは、少量であったが、半分は残した。
 豚肉、レバー等と一緒に煮込んだ汁物が沖縄料理にある。シンジムン(煎じもの)として風邪を引いたときなどに滋養剤として良く飲まされたのだが、この中に入っているニンジンの煮たものは、私は好きだった。元気な時でも作ってもらって食べたくらい。

 このニンジンは、しかし、スーパーでよく見かける普通のニンジンでは無い。ニンジン臭さが少なく、砂糖の甘さではなく、材料の持っている甘さが爽やか。そして、なによりも見た目が違う。彼女に、「島ニンジンのような足だね」と言うと、たいそうな褒め言葉になる。島ニンジンは普通のニンジン(五寸ニンジン)に比べると、ファッションモデルのように背が高く、スリム。丈は30センチ前後あり、上部の太いところでも直径3センチ前後と細長い。色は薄く黄色い。
 ニンジンにはもともと赤、橙、紫などいろんな種類があったらしい。京都には金時という種の紅色のニンジンがあるそうだ。島ニンジンは沖縄の在来種で、これからが旬の野菜。近所のスーパーにも二週間前頃から出始めた。煮ても焼いても美味しい。

 シマニンジン(島人参):野菜
 セリ科の一・二年生草本。原産はアフガニスタン。方言名:チデークニ
 文献には、方言名チデークニとある。デークニは大根のことで間違いないが、チデークニのチは血のことで、赤いという意味だと私は思っていた。つまり赤い大根ということになって、普通の橙色のニンジンを指しているのだろうと思っていた。しかし、シマニンジンはちっとも赤くない。皮も中身も薄い黄色。これが血であるはずは無い。
 で、年配の人に訊いて確認する。彼の答えは「普通のニンジンはニンジンで、島ニンジンこそがチデークニだ。」とのこと。で、調べる。今回から、参考文献に新たに『沖縄大百科事典』が加わった。それでチのつく言葉をいろいろ調べて解った。チデークニのチは黄のこと。黄色をチールとウチナーグチでは言う。つまり、チデークニは、黄色い大根という意味だったのだ。

 花
 記:島乃ガジ丸 2004.11.26  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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