ニガナ
 小六の時、交通事故にあって腕の骨を折り、三ヶ月ばかり入院したことがある。私は、食い物については好き嫌いの少ない子供だったので、三ヶ月間の毎日三食出る病院食も美味しく食べたと思う。差し入れのケーキは食わなかったかもしれない。子供の頃からケーキの甘さは苦手だった。あんこやチョコレートの甘さは平気だったのだが・・・。
 病院食も美味しく食べた、と書いたが、じつは、正直言うと、病院食がどんなものだったかを全く覚えていない。まあ、覚えていないということからも、私にとっては病院食も、母親が作る家庭料理と何ら変わらぬ普通食だったであろうことが伺える。
 入院中何を食ったかを全く覚えていない私であるが、ただ一つ、これだけははっきり覚えている食い物がある。病院食では無く、母親が作って持ってきてくれたもの。沖縄の伝統的な滋養強壮の食い物。たぶん私は、その時、生まれて初めて食した物。

 母親が持ってきた鍋の中には、小さな魚がたくさんいた。たくさんいて、その小さな目が私を睨んでいた。それだけでも気味悪いが、まあ、その程度ではビビらない。口にする。苦い。シンジ(煎じ)薬だと言うので汁だけを飲めばいいのだが、汁が苦い。良薬口に苦し(なんて、その頃思ったわけではなかろうが)とも言うので、何とか飲む。「その野菜も食べなさい」と母が言うので、中に入っていた野菜(葉っぱ)も食う。これが予想外だった。この味を私は今でも記憶の奥に残している。強烈な苦さだったからだ。
 今では平気で食せるその葉っぱは、ウチナーグチ(沖縄口)でンザナとかンジャナバーとか言う野菜。沖縄料理にはイカ墨汁やヤギ汁、あるいは豆腐との白和えに使われる。入院中に私が食べたのはターイユ(フナ)シンジ(煎じ)という。ンザナが使われる。

 ニガナ(苦菜):野菜・薬草
 キク科の多年生草本 九州以南に分布 方言名:ニガナ・ンザナ
 沖縄でニガナと呼んでいる植物はホソバワダン(細葉苦菜)とハマナレン(大葉苦菜)の2種であるが、本土でニガナと呼んでいるニガナとは別種。ホソバワダンとハマナレンはどちらもキク科アゼトウナ属で、本土のニガナはキク科ニガナ属の多年草。いわば、こちらが名前としては正当のニガナであろう。
 苦いから苦菜でいいじゃない、というテキトーな考えでの呼び名ではあるが、栄養価が高く、夏場の野菜の少ない時期に重宝する。魚汁や白和えなどでよく目にする。

 花
 記:島乃ガジ丸 2005.7.5  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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