フジマメ
 風は涼しく日差し穏やかな4月のある日、県営運動公園へ散策に出かけた。その時出会った海人(ウミンチュ=漁師)らしき男性に、先週紹介した沖縄の薬草「セッコツソウ」の存在を教えてもらい、「腰痛に効く」と教えてもらい、その生息場所を教えてもらい、一緒にその場所へ行って、実物を見せてもらい、収穫したものを分けてもらった。

 それから数日後、頂いたセッコツソウを干してお茶にする準備を終え、セッコツソウが何者かも調べ終わっていたある日の事、薬草研究家のH爺様から電話があった。
 「名刺ができた。今、あんたの家の前まで来ている、会える?」と。「名刺?・・・って何だ?」と思いつつ会う。名刺って、前にHさんが話していた「薬草を普及させる組織を作って・・・云々」の組織の名刺であった。自身のと私のを作ってあった。「あの話、本気だったんだ。何という元気な83歳。今後、老人クラブを回って薬草の話をするつもりなんだ。」と、明日に向かって走ろうとする83歳に驚き、感心する。

 それはともかく、その時、Hさんに数日前の漁師のこと、彼からセッコツソウという薬草のことを教わったことを話する。Hさんは興味を持った。ということで、それから数日後の4月26日、Hさんを家に迎えに行って車に乗せ、セッコツソウが自生している県営運動公園へ案内する。公園を散策し、セッコツソウを見せ、家まで送る。

 その2時間ほどの行程、Hさんはいつものリュックの他に袋を1つ荷物にしていた。帰り道の車内で「今日のお礼と言っちゃあ何だが、」と言って、袋の中身を出した。1冊の本、いかにも平和運動家らしいその類の本。それと、キヌサヤに似た野菜。完熟したらしき莢、まだ未熟の莢。「これ食べてみて、完熟したものは豆として、未熟のものはキヌサヤのように煮たり炒めたり、天ぷらにしたりして美味しいよ」とHさん。
 すぐには思い出せなかったがその野菜を私は知っていた。実はHさんと知り合った10年ほど前、Hさんの家を訪ねた時、その庭のフェンスに絡まっていたのを見ていた。写真を撮って、調べて、それがフジマメという名の野菜であることもその時に知った。
 ただ、名前は知ったがそれが薬草にもなるということは知らなかった。薬草になることを知ったのは、その時フジマメを頂いて「これも薬効があるみたいだよ」とHさんから聞き、薬草の本で確かめてから。消化不良や解毒に効果があるとのこと。
 普段食としてのフジマメは、主に若い莢を利用する。香味があり美味とのこと。熟した種も食用となる。甘煮にして食ってみたが普通の黒豆の甘煮と変わらなかった。 
 フジマメ(藤豆):果菜・豆類
 マメ科の常緑蔓性一年草 原産は熱帯アフリカ 方言名:ウクマーミ
 名前の由来は「花がフジの花に似るのでこの名」とあった。広辞苑に記載があり、藤豆と漢字表記され「初夏から秋まで淡紫色または白色のフジに似た花を開き、美しい。若い莢さやは香味があり食用。関西地方では本種をインゲンマメと呼ぶ。」とのこと。
 そのフジに似た美しい花について文献には「開花期は7〜10月」とあったが、沖縄ではほぼ年中咲いており、したがって、沖縄での収穫期は5月から翌年3月までと長い。上の私の撮った全体写真は1月のもの。開花しており既に実も着いている。
 蔓は巻きつる型で他のものに絡みついて広がる。陽光地を好む。葉はマメ科でよく見る三出複葉。熱帯性の植物なので、倭国より沖縄の気候に向いている。文献には「莢は扁平で長さ3〜6センチ」とあったが、私が見たものはどれも長さ10センチ内外あった。そういう品種なのか、気候が向いているから成長が良いのかは不明。
 若い莢をインゲンマメのように食用とし、熟した豆も食用となる。熟した豆は長さ12〜13ミリ。黒色で白い筋が目立つ。毒性があり大量摂取は危険ともあった。
 大量摂取は危険だが適量であれば薬にもなる。漢方では消化不良や解毒に効果のある生薬として利用される。生葉を煎じて服用すれば食あたり・魚の中毒に効き、豆果は普段食として食すれば腸病・滋養保健に効くとのこと。 
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 フジマメ花と実
 記:島乃ガジ丸 2019.5.5  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
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 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
 『花の園芸大百科』株式会社主婦と生活社発行
 『新しい植木事典』三上常夫・若林芳樹共著 成美堂出版発行
 『花合わせ実用図鑑』株式会社六耀社発行
 『日本の帰化植物』株式会社平凡社発行
 『花と木の名前1200がよくわかる図鑑』株式会社主婦と生活社発行
 『熱帯植物散策』小林英治著、東京書籍発行
 『花卉園芸大百科』社団法人農山漁村文化協会発行
 『ニッポンの野菜』丹野清志著、株式会社玄光社発行
 『藤田智の野菜づくり大全』藤田智監修、NHK出版編
 『やんばる樹木観察図鑑』與那原正勝著、ぱる3企画発行
 『熱帯の果実』小島裕著、新星図書出版発行
 『熱帯花木と観葉植物図鑑』(社)日本インドアグリーン協会編、株式会社誠久堂発行
 『ハーブを楽しむ本』川口昌栄編集、株式会社集英社発行
 『琉球薬草誌』下地清吉著、琉球書房発行
 『沖縄やんばるフィールド図鑑』 湊和雄著 実業之日本社発行
 『グリーン・ライブラリー』タイムライフブックス発行
 『ネイチャーガイド 琉球の樹木』大川智史・林将之著、株式会社文一総合出版発行
 『つる植物』沖縄都市環境研究会著 (有)沖縄出版発行
 『熱帯アジアの花』ウィリアム・ウォーレン著、チャールズ・イー・タトル出版発行
 『講談社園芸大百科事典』野間省一編集、講談社発行
 『沖縄の薬草百科』多和田真淳・大田文子著、那覇出版社発行
 『沖縄食材図鑑』田崎聡著、有限会社楽園計画発行
 『自分で採れる薬になる植物図鑑』増田和夫監修、柏書房株式会社発行
 『家庭で使える薬用植物大図鑑』田中孝治著、社団法人家の光協会発行
 
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