ボタンボウフウ
 数年前に渡名喜島を訪れた時、村の教育委員会の人に島内をあちこち案内された。渡名喜島は港へ入る海の道が狭く、ちょっと強い風が吹くと、それが他島では問題の無い風であっても船が欠航となるらしい。で、訪れる観光客の数も少ないらしい。
 村の産業もこれといって目立ったものはなく、アーサを島外へ移出しているくらい。島全体が起伏の多い形状で、農地も狭く、したがって、農産物も大量生産できない。島内消費を賄うことさえ覚束ないものと思われる。とりあえず、貧乏な島なのである。
 「海も山も魅力ある島だし、港湾整備をすれば観光客も増えるでしょう?」と訊いた。
 「いやー、じつは、観光客はあまり増えて欲しくないだよね。特に、若者たちは海や浜を荒らしていくからね。今はまだ少ないから何とかできるけど、彼らの数が増えると、村としてもその尻拭いが追いつかなくなると思うんだよね。目立った産業も無く貧乏な島だけど、平和でのんびりしている。その平和を乱すのは夏にやってくる若者たちなんだ。」と教育委員会の人は答える。そして、海岸端に生えている草を指差して、
 「今、サクナに注目している。長命草というくらい体に良いものなので、これが産業にならないかと考えている。それができれば、島も少しは豊かになると思う。」

 その話を聞いてから、もう3、4年経っている。渡名喜島特産サクナジュースやら、サクナまんじゅうとかが人気、なんていう噂は、まだ聞こえてこない。

 ボタンボウフウ(牡丹防風):野菜・薬草
 セリ科の多年草 関東以西〜南西諸島に分布 方言名:サクナ・チョーミーグサ
 ボウフウは同じくセリ科の多年草で「根は漢方生薬の防風」(広辞苑)ということからその名がある。本種はそれと同科同属、「葉が牡丹に似ているボウフウ」なのでボタンボウフウという名。方言名の一つチョウミーグサは長命草という意。
 サクナという名で古くから知られた沖縄の薬草。ボウフウの仲間は他にハマボウフウが沖縄の海岸に自生しているが、ボウフウは無いようである。参考にしているどの文献にも記載が無く、耳にしたことも無い。この3種のボウフウ、いずれも薬用となる。
 ハマボウフウは薬草として紹介されているが、本種は薬草としてだけでなく、野菜としても食される。沖縄名物ヒージャー汁(山羊汁)に沖縄島ではフーチバー(ヨモギ)を入れるが、渡名喜や宮古、八重山辺りでは本種を入れる。刺身のつまにも使われる。若芽をお浸しにしても良く、また、天ぷらにすると美味、ほろ苦さが酒に合う。
 茎先に花序を出し、白い花を多数つける。開花期は春から夏。草丈は20〜50センチほどになる。海岸近くの岩上で多く見られる。
 2012年4月訂正加筆
 記:島乃ガジ丸 2005.8.30  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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