タンカン
 以前勤めていた職場は、アルバイトも含め従業員は約30名。男女の数はだいたい半々くらいで、女は中年の世代が多かったが、男は20代の若い人が多かった。
 社長はほとんどゴルフばっかりやっていて、会社にはあまり顔を出さなかった。会社の業務の指揮は専務、まだ40歳になるかならないかという若さだったが、彼が全てをやっていた。酒が一滴も飲めなかったのにも関わらず、従業員の飲み会に付合い、飲み代だけはいつも余分に、かなり余分に払っていく人で、仕事には厳しかったが、面倒見のいい皆から慕われる人物であった。社長の代わりに夜のお付合いにもたびたび出掛けていて、何度か私もお供をさせられた。夜の席で私は、専務の代わりの酒飲み役であった。
 もう一人専務がいた。便宜上、前述の専務はAさん、もう一人をBさんとする。BさんはAさんより少し年下で、いわゆるNO,3のような位置にあり、会社の実務をみながら従業員の教育などもしていた。Bさんは飲める人で、飲み会にはたいてい顔を出していた。
 AさんもBさんも仕事は別にして、従業員が楽しむことは大好きだったようで、二人でいろいろな行事を考え、それを実行した。新年会、忘年会はもちろんのこと。ビーチパーティー、野球大会、ボーリング大会、一泊旅行などなどがあった。男の方は若い連中が多かったので、それらの行事を喜んだ。みんなで盛り上げ、みんなで楽しんだ。
 ある年の冬、専務(どちらかの)がミカン狩りを提案した。シークヮーサーの時期が終わっている沖縄に、狩れるようなミカンがあるのだろうかと、まだ若かった私は不思議に思ったのだが、オバサンたちは大喜びしていた。「タンカンって言うのよ。普通のミカンとは違うけどね。美味しいよ。」とオバサンの一人が私に教えてくれた。

 沖縄島北部の本部町、名護から海洋博会場へ向かう途中の小高い丘になった辺りが伊豆味という部落。そこがミカン狩りのメッカ。朝早くから出掛け、食い放題というタンカンを食う。普通のミカンより甘くて美味しい。オレンジのような風味がある。普通のミカンとは違う柔らかくない皮のせいで、途中から親指の爪が痛くなってしまったが、楽しいタンカン狩りだった。その時が、私のタンカン(と知って)食べる初体験だった。

 タンカン(橘柑):果樹
 ミカン科の常緑低木。原産分布は中国広東省、九州南部、沖縄など。方言名:タンカン
 ミカン類とスイートオレンジ類との自然雑種と考えられている。昭和の初期には鹿児島で栽培が始められ、沖縄での本格的栽培は昭和40年代に入ってからのこと。台湾でも鹿児島でもいろいろと品種改良が行われ、現在沖縄で栽培されているのはほとんどが鹿児島で開発された垂水1号という品種らしい。沖縄の飲食「剥きにくいミカン」で親指の爪が痛くなるほど剥きにくい皮と書いたが、昨日食ったら、思ったより簡単に剥けた。昔、私が食べたものとは、もしかしたら品種が違うのかもしれない。今のも美味しい。
 樹高は3〜4mほどになる。ミカンよりはオレンジに近い味で甘い。贈答用として用いられるほどに人気はある。『沖縄園芸百科』によると、収穫は1月〜2月だが、食味が最高になるのはそれ以降の2月〜3月とのこと。今度、試してみよう。

 花

 実
 記:島乃ガジ丸 2005.2.4  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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