ナシ
 一昨年まで渋柿だった職場の柿が、去年から突然甘柿に変わった。柿の木にどのような心境(植物学的な)の変化があったか知らないが、それはまったく、私にとっては大いなる喜びとなった。庭の柿の実をもいで食ったという経験はそれまでに無かった。
 子供の頃、野原の果実(ほとんど桑の実)を食べたりしたが、、まれには、悪ガキ仲間(私は真面目な子だった)に誘われて他人の家の庭に生っている果実を盗み食いしたことがある。バンシルー(バンジロウ)やシークヮーサーなどであった。
 その頃、民家の庭にはバンシルーやシークヮーサーの他、キンカン、ザクロ、バナナ、パパイアなどの果樹があった。ずいぶん後(オジサンという歳)になってから、レイシ、リュウガン、マンゴー、アセローラなどもあることを知った。

 レイシ、リュウガン、マンゴー、アセローラ、バナナなどは倭国には珍しいものだと思う。逆に、倭国では普通だが沖縄ではほとんど見ない果樹も多くある。カキも大人になってからは多く見ているが、子供の頃は少なかった。ウメも最近よく目にするが、昔はほとんど見なかった。リンゴ、クリなどはまだ見たことが無い。
 去年、バスに乗っていて、外の景色を見ていたら、「何だあれ、ナシではないか?」と思う果実が生っている木を、民家の庭に見つけた。翌日、そこへ行き確かめる。確かにナシのようである。ピンポンとチャイムを鳴らし、インタホン越しに家人と会話する。
 「ナシのようですが、沖縄でも実が付くんですね?」
 「珍しいと思うけど、無いことは無いのよ、実も付くわよ」とのことであった。

 なお、職場の柿の木は今年もまた、たくさんの実をつけている。収穫が楽しみだが、収穫は戦いでもある。鳥たちとの戦い。食べ頃を先に気付かねばならない。

 ナシ(梨):果樹
 バラ科の落葉高木 原産は日本中部以南、中国 方言名:なし(無いということ)
 名前の由来は資料がなく不明。元々日本に自生していたというので、ナシは和語だと思われるが、果物に「無し」の発音を宛てたのは何か意味があったのか、興味はある。興味はあるけど、詮索する暇は無い。アリノミという別名があるが、蟻蚤が甘い汁に集るからということでは無く、「今日はこれで閉めにしましょう」と言うのを「これでお開きにしましょう」と言うのに同じ。「無しの実」ではなく「有りの実」としたわけ。
 中国も原産地の一つで、梨園(りえん)という古い言葉もある。梨園というと歌舞伎の世界のことを指す(ワイドショーからの知識)ようだが、広辞苑によると「(唐の玄宗が、梨の木の植えてある庭園で自ら音楽を教えたという故事から)俳優の社会。劇壇。演劇界。特に歌舞伎役者の社会。」とのこと。なるほど、勉強になった。
 花は見たことがないが、同じバラ科のサクラに似ていて、大きな白い花とのこと。果実は大きく、果汁は多くやや酸味があり、甘い。果肉はシャキシャキしている。この果肉のシャキシャキが洋ナシと大きく違う。洋ナシはモモの食感に近い。

 実
 記:島乃ガジ丸 2010.8.9  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
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