イチジク
 ガジ丸という名前の由来ともなっているガジュマルは、ウチナーンチュなら知らない人はいないであろうと思われるほど、沖縄では有名な木である。気根をいっぱい垂らした姿が髭を伸ばした爺さん、あるいは仙人のように見えてカッコいいし、キジムナー(妖精)の住処としても知られ、県内のあちこちに植えられ、よく見かける。
 ガジュマルはクワ科イチジク属の植物である。沖縄にはクワ科イチジク属が他にインドゴムノキ、アコウ、イヌビワ、オオバイヌビワ、オオイタビなど多くある。ところが、属名ともなっているイチジクを私は見たことが無かった。あちらこちら散歩して、数多くの民家の庭を覗いているが、イチジクにはお目にかかったことが無かった。
 植物に詳しい同僚のOさんに訊いても、「俺も見たことが無い」との答え。で、沖縄にはイチジクが無い、育たないのであろうと思っていた。ところが、あったのだ。しかもすぐ近所に。一ヶ月ほど前、その家の前を通った時にその存在に気付いて、「もしかしたらイチジクではないか?」と思っていた。果実の形が写真で見たことのあるイチジクに似ていたのだ。で、先日、たまたまそこの奥さんが庭手入れをしている時に声をかけた。
 「イチジクよ。珍しいみたいね。実が付いて、大きくなっているって言ったら、買った園芸店の人も興味を持って、ぜひその写真を見せてくれって言うのよ。」とのこと。

 『沖縄園芸百科』にはイチジクが載っている。沖縄で栽培できないことはないみたいである。が、「果実は軟弱で日持ちが悪く・・・営利栽培は困難・・・」とある。農産物としての生産は無いようだ。確かに、どこのスーパーでも沖縄産イチジクは見ない。

 イチジク(無花果・映日果):果樹
 クワ科の落葉高木 西アジア原産 方言名:なし
 名前の由来が広辞苑にあった。「中世ペルシア語 anjr の中国での音訳語「映日果(インジークォ)」がさらに転音したもの」とのこと。漢字名の映日果はそこからで、もう一つの無花果は、イチジクの花と果実の特徴からきている。別名トウガキ(唐柿)。
 無花果、花の無い果実と読めるが、イチジクに限らずクワ科イチジク属の植物の特徴でもある。「偽果の一種で、壺状の花序(花壺)の内部に小さな花が密につき、受粉後花壺全体がそのまま1個の果実となる」(広辞苑)のこと。花は「無い」のではなく、表に現れないということ。「花が咲かないのに実が付いている」ように見える。
 果実は秋になると濃い紫色に熟し、食用となる。「食べる部分は実際は花床である」(広辞苑)とある。食用となるのは果肉ではないということ。その他、葉は薬用。果実は乾して緩下剤。乳汁は痔の塗布薬、また服用すれば回虫駆除の効がある」と広辞苑にあり、『沖縄園芸百科』には葉を煎じて、または果実そのものが便秘の薬と紹介されている。生のイチジクは沖縄に少ないが、乾燥イチジクはスーパーなどでよく見かける。
 クワ科イチジク属は沖縄に多くある。アコウ、イヌビワ、オオバイヌビワ、インドゴムノキ、オオイタビなどなど。ガジ丸の名前の由来にもなっている沖縄の代表的樹木であるガジュマルもそう。茎・葉などに白い乳液があるということもほぼ共通の特徴。

 実

 参考写真(無花果):実の中に花がある。
 記:島乃ガジ丸 2010.12.16  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
inserted by FC2 system