ヤブニッケイ
 私が子供の頃、沖縄では駄菓子屋のことをイッセンマチヤグヮーと言った。マチヤグヮーは漢字にすると街屋小とでもなるか。街は市場を指し、屋がついて商店、小がついて小さな商店ということになる。イッセンは、その意味としては1銭と書いてもいい。子供相手の、単価の安い駄菓子が主な商品である。が、じっさいは1銭では無く、1セントを短く言ったもの。1セントはアメリカ合衆国の通貨。私が子供の頃、沖縄はまだアメリカの統治下にあり、我々が使う通貨はドルであった。
 当時のイッセンマチヤグヮーには、いかがわしい食い物がたくさんあった。現在では食品として使用するのを禁じられている合成着色料、合成甘味料、防腐剤などが何の歯止めも無く使われていたと思う。そんないかがわしい食い物でも子供たちにとってはご馳走となる。我々はそれらを喜々として食った。我々の世代はきっと早死にするに違いない。
 マチヤグヮーやイッセンマチヤグヮーについては後日、詳しく紹介したいと思う。

 さて、いかがわしい食い物の中に、色のついた紙があった。紙は飲み込むのでは無く、口に入れて、噛んで、紙に染み込まれている味を楽しむもの。紙を噛んだ唾液は甘く、口の中がスーッとした。舌が紙の色(赤、黄、紫など)に染まった。名前をニッキと言った。大人になってから、それがニッケイのことであることを知った。口の中がスーッとしたのはニッケイ(科学合成のニッケイかも)の成分が含まれているからであった。

 以下、2013年8月、訂正加筆。
 過日、南風原黄金森公園を散策した。ところどころに樹木札があり、その中にはその木の用途を記されたものも多くあった。ヤブニッケイは、「枝や葉に油分を多く含み、よく燃えるので、石油やガスコンロが普及する前は、薪として好まれました。種子は炊くと胡麻の代用になるようです。葉は皮膚病、水虫などの薬用になります」とのこと。
 「薪として好まれた」に私は関心を持ち、畑に1本植えておくかと思った。縄文人の生き方に憧れているので、燃料も自給しようかという魂胆。

 ヤブニッケイ(藪肉桂):公園
 クスノキ科の常緑高木 西日本、沖縄、台湾、他に分布 方言名:シバキ、ツツアギ
 香辛料のシナモンのことを和語ではニッケイ(肉桂)と言うが、それは樹木のニッケイの樹皮(桂皮と言う)を乾燥させたものを言う。ということで、ニッケイは樹木名でもある。そのニッケイと同属で、山地に自生することからヤブニッケイという名。
 本種の樹皮もニッケイにやや似た香りと渋みがあるらしいが、香辛料として利用されるとは私が参考にしているどの文献にも記載されていない。ただ、種子から肉桂脂をとり薬用とするのはニッケイと同じとある。紫黒色の果実、結実期は6月から9月。
 高さ10mになる。成長は速く、耐潮風性が強い。半陰でも陽光地でもよく生育する。種子が薬用に用いられ、材は器具や薪炭として利用される。花は目立たない。

 葉

 ちなみに、
 ニッケイ(肉桂):公園
 クスノキ科の常緑高木。インドシナ原産 方言名:なし

 葉
 記:島乃ガジ丸 2005.12.19  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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