トックリヤシモドキ
 去年の6月、現場仕事に出て、昼飯を広い駐車場の木陰で取った。木陰を探してその駐車場を歩いている時に、甘い匂いがすることに気付いた。その匂い、初めてでは無い。これまでに何度も嗅いでいる匂いだ。何の匂いかと気になっていたが、近くに匂いのしそうな花は咲いてなくて、ずっと不明なままとなっていた。
 その時も、近辺に匂いのしそうな花は無かった。ただ、ある木の下を通った時に匂いは強くなった。その木はトックリヤシモドキであった。トックリヤシモドキは職場の庭にあり、近くの小学校の庭にあり、近くの街路樹にあり、ごく身近な木だ。ただ、トックリヤシモドキの花に芳香があるなんてことは聞いたことが無かった。
 甘い匂いが漂う中、トックリヤシモドキを見上げた。花が咲いていた。手の届かない高い位置にあるので、匂いがあるかどうか確かめられない。が、足元を見ると多くの花が落ちていた。小さな花だ。それらを集めて、手に取って匂いを嗅ぐ。何年も前から、何の匂いだか判らなかったあの匂いであった。「お前だったのか!」と心で叫ぶ。

 その後、いくつかの文献を読んでみたが、トックリヤシモドキの花に芳香があるなんて記述は無かった。こんなに匂うのに何でだろうと不思議に思う。
 花がたくさんつくので、当然、果実も多く生る。果実はオリーブほどの大きさ。これもそう強くは無いが甘い匂いがする。押しつぶしてみると大きな種子があったが、果肉はたっぷりの水分を含んでいた。美味しそうであった。しかし、どの文献にもトックリヤシモドキの果実は食用になるとは書かれていない。で、私も試していない。
 トックリヤシモドキだけで無く、同属のトックリヤシにも多くの果実が生る。こういった果実が食料になれば、沖縄の浮浪者は助かると思うのだが、どうなんだろう。

 トックリヤシモドキ(徳利椰子擬き):公園
 ヤシ科の常緑高木 ロドリゲス島原産 方言名:なし
 幹の中央部がやや膨れ、トックリヤシに似ているのでこの名がある。両者は同属で、葉の形、花の付きかたも似ている。全体的には、本種はトックリヤシより幹の膨らみが少なく、背も高くすらっとしているので区別がつく。
 陽光地を好む。高さは10mほどになる。小さな橙色の花が房状になって多くつく。花は芳香がある。開花期は3月から6月と文献にあるが、私の経験ではもっと長い。果実も多く生り、水分を多く含んで甘い匂いもするが、食用になるかどうかは不明。
 タイワンカブトムシの食害を受ける。
 学名は、トックリヤシ、Mascarena lagenicaulis L.H.Bailey
 トックリヤシモドキMascarena verschaffeltii L.H.Bailey

 花

 実

 完熟実

 並木
 記:島乃ガジ丸 2008.4.15  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
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