テリハボク
 十数年前、木工家たちのキャンプに参加したことがある。場所は本部町のある部落。那覇から高速を使って1時間半から2時間ほどの場所。木工仲間の一人がそこの出身で、その実家の裏手にある海岸にテントを張り、砂浜でバーベキューパーティーをした。
 参加者は30人ほどで、木工、染色、織物など工芸の仕事に携わっている人たちがほとんどだったが、私のように工芸の仕事はしていないが、樹木、木材に興味があって参加したという人も2、3人はいた。木工家たちはしかし、樹木がどうの、材料がどうのという真面目な話(私はそういうのが聞きたかったのだが)はあまりせず、いかにもウチナーンチュらしく、飲んで唄って、酔って騒いで一夜を過ごした。

 往路も復路も、私は木工家のSさんの車に便乗させてもらった。Sさんは、木工家の作品展などで私が見た限りでは、ウチナーンチュの木工家としてはもっとも腕の良い人である。その腕の良さは私だけで無く多くの人に認められているようで、彼に仕事を頼む人は多い。Sさんはまた、私の知る限りでは、もっともウチナーンチュらしいいい加減な人でもある。頼まれた仕事を忘れたり、やりかけの仕事があるにもかかわらず、ふと行方不明になったりすることもある。そんなSさんがキャンプへの往路で、
 「ヤラブって知っているか?」と車を運転しながら私に訊いた。
 「ウミヘビのこと?」と訊き返すと
 「それはイラブーさあ、さっきから木の話をしているのに、何で急にウミヘビの話になるか。ヤラブはテリハボクのことさあ。方言でヤラブって言うさぁ。八重山で木工の材料によく使われている木だよ。本島では大木をあまり見かけないけど、八重山には大きなヤラブがいっぱいある。」と言い、暫くして、
 「あれ、あの木」と、ある民家の塀沿いに植わっている木を指差した。
 「あれはフクギじゃないですか?」と問うと
 「似ているけど、違う。全体の形が見た目ではっきり違う。ちょっと似ただけで同じもんだと思っていたら、お前、木の話はできないよー。互いに似ている木はいっぱいあるよー。もうちょっと細かく勉強しないと話にならないよー」と説教された。

 確かに全体の樹形も違うが、葉の大きさもフクギよりは幾分小さいようだ。見た目はともかく、木材としての利用価値は大いに違うようだ。と言われてもよ先輩、後輩もウチナーンチュなのでいい加減さは持っているが、お金を貰って頼まれた仕事でさえも忘れたりする人に、もっと細かくなりなさいなんて言われても腑に落ちないさぁ。
     
 テリハボク(照葉木):公園樹・防風防潮林
 オトギリソウ科の常緑高木 分布は沖縄本島以南、東南アジア 方言名:ヤラブ
 名前の由来は資料が無くても判る。葉に照りがあるからテリハ(照葉)ボク。別名をヒイタマナと言うが、これについては資料が無く不明。モモタマナと関係があるかも。
 沖縄各地で古くから親しまれていたようで方言名が多くある。私が参考にしている文献だけでもヤラブの他、ヤナブ、ヤラク、トゥフクギ、ヤラフクギなど。
 トゥフクギ、ヤラフクギなどの方言名がある通り、同じオトギリソウ科のフクギに見た目がよく似ている。潮風に強く、防風林、防潮林として用いられる点でも似ており、葉や実の形も似ているが、フクギが直幹でローソク形にすらっと伸びるのに対し、テリハボクは枝葉を四方八方に伸ばす暴れ木。街路樹や民家の生垣には不向き。高さが20m程に達する大木であることからも民家の庭には不向き。
 花は、参考文献にはあまり触れられていないが、白い清らかな花で、まあまあ大きく、枝先に多数かたまって付き、よく目立つ。開花期は5月から7月。花後の果実も大きくてよく目立つ。結実期は10月から12月で赤褐色に熟す。
 材が堅く、木目が美しいので家具や挽き物などの木工製品に利用される。

 花

 実

 訂正加筆:2011.7.31 ガジ丸
 記:島乃ガジ丸 2004.12.10  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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