タブノキ
 私は、周囲の仲間内では物知りの方である。少なくとも自分ではそう思っている。20年ほど前、飲み屋でビーフンの話になって、「米の粉で作るんだよ」という私を誰も信用しなくて、店の女の子にも笑われた覚えがある。信用されない・・・不徳の至す所。
 数年前にキャンプで、刃渡り8センチほどの小さなナイフで魚を捌いていると、我々のアウトドアのリーダーであるMさんが、「魚はそんなやって切ってはダメですよ」と言って切り方の手本を見せてくれた。周りのお姉さんたちに私は「ヘタねー」と、大いに笑われた。私はナイフを鋸のように上下に行き来させて魚を切っていた。Mさんは引くだけであった。刃渡りが長いものであればMさんのように引くだけで良いが、短い刃の場合は細かく動かした方が魚の身の切り口は滑らかになる、と私は信じている。ではあるが、リーダーに「お言葉を返すようですが」とは言わなかった。お言葉を返しても、私に賛同するお姉さんは誰一人いそうになかったからである。・・・これも不徳の至す所。
 私はまた、知らないことを知らないとはっきり言わない癖も持つ。つまり、知ったかぶりするのである。常々反省はするのだが、なかなかその癖、直らない。

 昔、自称物知り爺さんがいて、「知らないものは無い」と普段から威張っていた。ある日、近所の若者たちと連れ立って近くの海岸へ散歩へ出かけた。そこに生えていた木を見て、若者の一人が何の木かと爺さんに尋ねた。
 「うーん、それは・・・たぶん・・・」と爺さんが考えていると、
 「あー、そうなんですか、タブンという名前ですか」と誤解され、それがそのまま広く伝わって、タブンノキとなり、つまってタブノキとなった。
 というのも、知らないことを知らないとはっきり言わない私の作り話である。

 以下、2013年8月、訂正加筆。
 過日、南風原黄金森公園を散策した。ところどころに樹木札があり、その中には方言名があり、その由来を記してあるものもあった。タブノキの方言名はハサーギとあり、その由来については、「方言名のハサーギはハサマーギが変化したもので、「クワガタムシ(ハサマー)の木(ギ)という意味があります」とのこと。

 タブノキ(椨):公園
 クスノキ科の常緑高木 原産分布は東北以南、南西諸島、他 方言名:トゥムル
 名前の由来は不明。タブが何を意味するのか解らなかった。漢字の椨にもタブという読みしかなく、タブノキという意味しかない。別名をイヌグス(犬楠)というが、クスノキに似て、クスノキほど人間の役に立つものではないということであろう。
 本土では春、沖縄では1月から3月にかけて黄緑色の小さな花をつけるが、花は目立たない。4月から5月に果実が黒紫色に熟するが、これも観賞するほどのものでは無い。であるが、景観として、防潮としては大いに役に立つ。新芽、新葉が赤くてきれい。
 高さ20mほどになり、成長は速い。海岸近くに自生が見られる通り潮風には強く、また、耐陰性もある丈夫な植物。
 クスノキ同様、クスノキほどでは無いらしが、葉や材に芳香があるとのこと。その材は器具材に使われ、樹皮は染料に使われ、葉や樹皮からは線香を固めるための糊料が採れるとのこと。なかなか役に立つ木、それでもクスノキには及ばないってこと。

 花

 実
 記:島乃ガジ丸 2006.8.12  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
inserted by FC2 system