スギ
 先週のフジテレビ、めざまし土曜日で、沖縄の旅をやっていた。花粉症の無い春の沖縄へめんそーれ、といった内容だった。確かに、沖縄に住む私の周りで花粉症の人を見たことが無いし、そういう人がいるということを聞いたことも無い。
 花粉症、私が東京に住んでいた25年ほど前までは聞いたことのない言葉、私の部屋にある『学研国語大辞典』1978年発行には載っていない言葉、なので、その頃は無かった病気だ。いつ頃から出てきたのだろう。私のパソコンに入っている『広辞苑』1998年版には載っているので、少なくとも10年ほど前にはあったようだ。
 その広辞苑によると、花粉症の原因となる花粉は、「春のスギ・ヒノキ、初夏のオオアワガエリ、秋のブタクサ・ヨモギなどの花粉が知られている。」とのこと。この中ではスギ花粉が有名で、私もテレビからの情報でよく耳にしている。スギの開花期は3月から4月とのこと。今頃が、花粉症の人にとっては辛い時期のようである。

 「花粉症の無い春の沖縄」というのは、沖縄には春の花粉症の原因となるスギやヒノキがほとんど無いからだが、全く無いわけでは無い。ヒノキの存在は聞いたこと無いが、山にも詳しい木工家のSさんから、「ヤンバル(山原、沖縄島中北部の通称)の山深く、川沿いに行くと杉の木を見ることができる。」と聞いている。スギの材を利用する目的で、昔(どの位昔かは不明)はスギの植林もあったらしい。
 私も、沖縄ではスギを見たことがなかった。しかし、去年、海洋博公園を訪れた際、おもろそうしの植物というコーナーでスギに出会った。『おもろそうし』とは、時代はずっと新しい(12世紀〜17世紀)が、沖縄の万葉集みたいなもの。その中にスギの出てくる歌もある。その頃(幅が広いが)には、スギも身近にあったのであろう。

 スギ(杉・椙):公園・植林
 スギ科の常緑針葉樹 日本特産 方言名:シジ、シギ
 若い頃に、「マッスグナキ(真っ直ぐな木)が詰まってスギ」というのを聞いたことがある。誰から聞いたのか、あるいは何かの本で読んだか、テレビからの情報なのか、今となっては記憶が定かでないが、「なるほど」と思った。正しいかどうかは不明。
 方言名のシジ、シギは、いずれもスギの沖縄語発音。方言名があることからも想像できるが、スギは沖縄でも馴染み深い。それは、木では無く、材として。沖縄の昔の家は木造が多く、その際、柱、梁、壁板、天井板などに杉材を用いた。
 杉林、杉山などスギの植林された景色を本土では多く見ることができるが、沖縄にはそのような景色は無い。スギの木一本の姿さえほとんど見ることができない。ただ、『沖縄大百科事典』に「沖縄でも古くから植栽され、スギの適地をスギ敷と称してきた。」とあるので、昔の沖縄には杉も珍しくはなかったかもしれない。
 現在、沖縄ではスギの姿をほとんど見ることができない。沖縄の気候がスギの生育に不向きなのだと思う。スギの適地にわざわざ「スギ敷」と名をつけることからも、スギの適地が稀であったことが窺われる。沖縄に自生があるかどうかは不明とのこと。
 高さは50mに達し、幹は真っ直ぐ伸びる。雌雄同種で、開花期は3月から4月。材は有用で、建築、桶、曲物など広く利用される。杉皮も屋根を拭く材料となる。材としては吉野杉・秋田杉・屋久杉などが有名。沖縄の漁船であるサバニも杉が用いられ、「油分に富んだ飫肥杉が上等」と、木工家のSさんが語っていた。
 記:島乃ガジ丸 2009.3.14  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
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