シダレヤナギ
 倭国へ旅をすると、川べりに柳が並木となっている景色によく出会う。さらさらと風に揺れる柳の枝葉は風情がある。色っぽいとさえ私は感じる。
 その色っぽい景色が沖縄には無い。柳はある。あるが、並木というほど連なっている景色は無い。今は無いが、昔、私が子供のころはあった。
 小学校低学年の頃、父と一緒に泊高橋のバス停に立っていた。道を挟んで向こう側には安里川が流れている。安里川のその辺りは川べりにシダレヤナギが連なっていた。バスを待ちながら向かいのシダレヤナギの枝葉が揺れるのをボーっと眺めていたら、突然、女性が川に飛び込んだ。近くにいたアメリカ人がすぐに後を追って飛び込んだ。女性は「死にたいよー」とか「死なせてよー」とか叫んでいたが、アメリカ人に助けられた。
 柳というと、その時の光景を私は思い出す。その後、安里川の川べりの柳はいつの間にか姿を消していき、私が大人になった頃には1本も残っていなかったと記憶している。後に聞いたところによると、柳の木は腐れやすいとか、シロアリが入りやすいとかの理由で枯れたり、あるいは撤去されたとのことであった。
 浦添市の、なんという川か名前は知らないが、そこの川べりには記憶している限り20年ほど前までシダレヤナギの並木があった。で、先日、そこへ写真を撮りに行った。
 シダレヤナギが腐れやすいのは那覇も浦添も同じみたいで、並木という形は既に消えていた。が、数本がまだ元気に残っていた。ポツンポツンと。

 シダレヤナギ(垂れ柳):公園・街路
 ヤナギ科の落葉高木 中国原産 方言名:不詳
 柳は広辞苑に「ヤノキ(矢箆木)の転か。また、楊之木の意とも」とあった。矢箆は矢柄のこと。矢柄は「矢の幹」で「多く篠竹でつくる」とのことだが、柳を矢柄の材として用いたこともあったのだろう。ヤナギのことをヨウリュウとも言う。ヨウリュウは楊柳と書き、「楊はカワヤナギ、柳はシダレヤナギ」(広辞苑)のこと。
 ヤナギはヤナギ科ヤナギ属植物の総称で、楊柳という通りカワヤナギ、シダレヤナギが代表種。楊は上がる、柳は垂れる意とのこと。本種はシダレ(垂れ)ている。
 花は早春に咲き、黄緑色であまり目立たない。柳葉包丁の柳葉という形容もある細長い葉が特徴的だが、本種は名の通り、細長い枝が垂れ下がる姿がなお特徴的。
 高さは10m、成長は速く、陽光地を好む。公園、街路樹などに利用される。川べりの植栽によく用いられるが、幹に腐れが入りやすいことから沖縄には少ない。

 葉
 記:島乃ガジ丸 2010.2.8  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
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