ニッケイ
 子供の頃、小学校の周りにはイッセンマチヤグヮーなる店があった。1セント(当時の沖縄の通貨はアメリカドル)で買えるものを多く売っている店のことだ。和語にすると駄菓子屋のようなもの。そこにはニッキなる紙が売られていた。子供たちはその紙を買って舐めていた。舐めると良い香りの甘く爽やかな味がした。
 アップルパイに使われる香辛料のシナモンは、ニッケイでは無く、先週紹介したセイロンニッケイ、またはシナニッケイの樹皮から採れるものらしい。しかし、昭和の貧乏な子供とってはアップルパイよりニッキ紙がはるかに身近な食い物であった。

 同僚のOさんは私と同年代で、当然ニッキ紙のことも知っていて、その話をすると「あーあったなぁ、そんなの」と答えたのだが、「ニッケイの皮を剥いで、それを舐めたりもしていたよ」と、私の経験にも想像にも無い話をしてくれた。
 ニッケイは私の生まれ育った那覇には無いが、ヤンバル(沖縄島北部の通称)には自生がある。Oさんは今帰仁(沖縄島北部の村)の生まれ育ちで、ウチナーンチュのほとんどが貧しかった当時、ヤンバルの貧乏少年たちは木の皮を舐めていたようだ。

 ニッケイ(肉桂):公園・香辛料
 クスノキ科の常緑高木 原産地は日本、中国 方言名:カラギ、ガラギ
 名前の由来は資料が無く不明。桂はカツラと読んでカツラ科の落葉高木を指すが、「肉桂・木犀など、常緑の香木の総称」(広辞苑)ともあった。本種はその樹皮を漢方薬として中国で古くから利用されている。樹皮=肉と喩えたのかもしれない。
 カラギ、ガラギと方言名があるように沖縄でも古くから親しまれている。徳之島、沖縄島北部、久米島、石垣島に自生があるとのこと。花は淡黄緑色で、葉脇から円錐花序を出し、多数つける。開花期は4〜5月。果実は黒褐色で、11〜1月に熟す。
 高さは8mほどになる。葉は明瞭な3行脈を持ち、先は尖る。セイロンニッケイの葉は湾曲しているが、本種は湾曲していない。材は器具、下駄などに用いる。
 樹皮に肉桂油を含み芳香がある。その樹皮と根皮は薬用、香味料に用いるが、樹皮の香りはあまり無く、根の皮に強い香りがあるとのこと。
 別名ニホンニッケイ。日本の山地で普通に見られるヤブニッケイも同属、ヤブニッケイは種子から肉桂油を採り薬用とする。琉球列島固有種のシバニッケイも同属。
 学名は、ニッケイ Cinnamomum loureirii Ness.
 ヤブニッケイ Cinnamomum japonicum Sieb.
 シバニッケイ Cinnamomum doederleinii Engl.

 葉
 記:島乃ガジ丸 2012.2.1  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
 『花の園芸大百科』株式会社主婦と生活社発行
 『新しい植木事典』三上常夫・若林芳樹共著 成美堂出版発行
 『花合わせ実用図鑑』株式会社六耀社発行
 『日本の帰化植物』株式会社平凡社発行
 『花と木の名前1200がよくわかる図鑑』株式会社主婦と生活社発行
 『熱帯植物散策』小林英治著、東京書籍発行
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