イヌビワ
 植物でイヌ○○と名前のつくものは、○○より劣ったものという意味になるということは何かの頁でも書いたが、それは植物に限ったことでは無い。
 広辞苑によると、いぬ(犬・狗)は「ある語に冠して、似て非なるもの、劣るものの意を表す語。また、卑しめ軽んじて、くだらないもの、むだなものの意を表す語」とのことで、犬死や犬侍などの例が載っている。犬畜生という言葉もある。「人を犬になぞらえてののしっていう語」(広辞苑)とのことで、「犬畜生にも劣る奴だ」などと使う。
 世の中に犬好きの人は多くいて、そんな、犬をバカにしたようなことを言うと憤慨するであろうが、私は広辞苑の通り、人をバカにする際犬畜生と罵る件に関しては、犬に対し何の後ろめたさも無い。人に比べれば、犬とはそういう存在である。
 一泊二万円もする犬のホテルがあり、そこが大人気で、いつも埋まっているという話を聞いて、私にすればそれこそ憤慨ものなのであるが、その話は別項で。

 植物のつくイヌは、人間の役に立つか立たないかという観点から多くはきているようである。果実が食えないとか、見た目がよろしくないからとかいうものである。
 イヌビワは、果実が美味しくないからイヌとついているようだが、樹木としての形は悪くは無い。ただ、沖縄ではナンクルミー(自然発生)する植物の代表みたいなもので、植えてもいないのに、必要の無いところから勝手に生えてくるものだから雑木扱いされている。『沖縄の都市緑化植物図鑑』にも記載されていない。都市緑化植物の仲間には入れてもらえないのである。聞けば、倭国では庭木として使われているらしい。

 イヌビワ(犬枇杷):公園・添景
 クワ科の落葉低木 関東以南、南西諸島などに分布。方言名:アンマーチーギ
 名前は、果実がビワに似ているところからきているが、イヌは「劣ったもの」という意味があって、ビワの実より小さく、味も劣っているということ。ちなみに、ビワはバラ科で本種はクワ科と種は遠い。クワ科イチジク属なのでイチジクがずっと近い。イチジクより小さく、美味しくないという意味で、イヌイチジクでも良かったのではないか。方言名のアンマーチーギは母ちゃんの乳の木ということ。果実から白い液が出るからとの理由。他にミンチャンブーという面白い発音の方言名もあるが、これは不明。
 小さく、味も劣ってはいるが、食べられるらしい。私は未経験。今度試してみようとは思うが、見た目でもあまり美味しそうでは無い。ボンドのような白い液が出るし。
 高さは5mほどになる。耐陰性があり成長は速い。耐潮風性も強く、海岸近くの植栽にも向く。そう大きくならないので、民家の庭木としてもいいのだが、ナンクルミー(勝手に種が落ちて生えてくること)するので、あまり好まれないようである。
 花はイチジク同様に果実の中にある。これを無花果という。直径20ミリほどの大きさで葉の腋にをつける。採種期1月から2月。葉はイシガケチョウの食草となる。

 実
 記:島乃ガジ丸 2006.9.2  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
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