バクチノキ
 金曜日の職場のある近辺は、ほぼ碁盤目模様に区画整理された住宅地である。地番も、何丁目何番地の何というふうに今はなっている。その歴史は浅く、そのような地番になったのはまだ30年ばかり前のことで、それまでは字○○であった。
 職場の建物が建ったのは20年ほど前のこと。店のオーナーである従姉の亭主は、その建物と、建物が建っている土地の所有者でもある。建物がもうすぐ完成するという頃、建物の名前を決めるという協議があり、わたしも参加した。建物の前に1トン程度の石を置き、その石に建物の名前を彫るということが既に決まっていて、石を選んだり、名前を彫らせたり、そういった手配を私は頼まれていたのである。
 店の名前に関しては、私も店の運営に参加するということが決まっていたので、いくつか意見を出した(それらは全て、従姉の強権によって却下されたが)。建物全体の名前に関しては、私は何の意見も言うつもりは無かった。そんな権利も義務も無いのだ。

 「ねえ、私たちの頭文字のアルファベットと数字だけのシンプルなものにしない。」
 「うん、いいんじゃないの。でも、数字は何にするんだい?」
 「ここの住所でいいんじゃないの。」
 「何丁目何番地の何って、なんか長ったらしくないか?」
 「いや、古い地番を使うのよ。3ケタだけだし、私たちには馴染み深いし。」
 「そうだな、そうするか。」
と、ここまで黙って聞いていた私であったが、ここで初めて口を出した。古い地番が853であることを知っていたからだ。
 「まあ、それなら覚えやすいよね。ハゴーサンて覚えられるね。」
 その後、二人の間から地番を名前にするという意見は消えた。ハゴーサンはウチナーグチで「汚い」という意味になる。自分たちの建物が「汚い」と覚えられるのは、二人とも嫌だったようである。結局、建物はごくありふれた名前になった。

 バクチノキは博打の木ということで、あまり良い名前とは言えないが、それでも、方言名のファゴーギー(=ハゴーギ=汚い木)よりはまだましかもしれない。

 バクチノキ(博打の木):公園・街路
 バラ科の常緑高木 原産分布は関東以西、南西諸島、他 方言名:ファゴーギー
 博打の木という面白い名前は広辞苑に、「樹皮は灰褐色で絶えずはがれ落ち、博打で負けて裸になるのにたとえての名」とあった。方言名のギーは木。ファゴーはハゴーとも発音するが、汚いという意味。まだら模様になった幹肌が汚いということ。
 高さは10〜15m。葉は革質で大きい。葉の腋から花茎を出し、白色の小花を穂状につける。一つの花から長い雄しべが何本も出て、全体にはブラシのように見える。開花期は9月から10月。果実は翌年の初夏に黒紫色に熟す。
 広辞苑に「ばくち水」との記述もあった。この葉から製した液で、鎮咳、鎮静薬になるとのことであるが、「博打水」とは任侠の世界にもありそうな言葉だ。

 葉
 記:島乃ガジ丸 2006.7.24  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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