フジ
 籐細工という言葉は、トウザイクと私は読んでいるが、それはしかし、「籐の茎で細工すること。また、その細工品。」(広辞苑)とのこと。そういえばそうだ。籐細工には昔ちょっと関わったことがある。藤産業(とうさんぎょう)という名の工房があって、その名の通り倒産してしまって、その後の整理をバイトでやったことがある。
 籐細工はまた、これをフジザイクと読むと、「ふじかずらで細工すること。また、その細工品。」(同)を指す。植物の藤、それをトウと読むと、ヤシ科トウ属の蔓性木本であるトウザイクの籐を指すが、藤をフジと読むと、マメ科フジ属の蔓性落葉木本となる。そういえば、知人に編組工芸家(蔓や竹を編んで篭、笊などを作る)がいて、篭の材料には竹だけでなく、アケビやフジの蔓も用いるということも、私は、編組工芸家と付き合いがあったのは20年以上も前のことなので、若い頃から知っている。

 植物のフジも若い頃から知っていた。若い頃に東京で5年間暮らしているので、その頃に知っている。藤紫という言葉は特に記憶に深い。大学の友人が「藤紫の柄の着物」がどうのこうのというのを聞いて、フジムラサキという響きに上品なものを感じ、実際、フジの花を見た時に、「なるほど」と納得した記憶がある。
 しかし、そのフジ、沖縄ではあまり見かけない。私が参考にしている沖縄の植物を紹介している文献では、フジを記載してあるものは1冊しかない。その1冊である『沖縄植物野外活用図鑑』でも、フジの説明文はたったの2行しかない。
 従姉の庭のフジが、植えてから10年位経っていると思うが、今年、花をつけた。去年も2、3つの房があったが、今年は十数個の房。房は小さいけれど、フジはフジ。この調子で年々、房の数を増やしていけば、沖縄のフジの名所になるかもしれない。

 フジ(藤):添景・パーゴラ
 マメ科の落葉蔓性木本 本州から九州に分布 方言名:なし
 広辞苑によると、フジは「マメ科フジ属の蔓性落葉木本の総称」とのこと。ただし、フジという種もある。マメ科フジ属フジは別名ノダフジとも言う。
 『野外ハンドブック樹木』にはフジと総称されるものの内、フジとヤマフジとが載っていた。両者の違いは、「花の穂、フジは長さ30センチ位、ヤマフジは10〜20センチで、花の数もヤマフジは少ない。」、「穂の上の方から順次花が開く、ヤマフジはほぼ同時期に開く。」、「フジの開花期は4〜7月で、ヤマフジは5〜7月。」、「フジは日本全国に分布し、ヤマフジは関東南部以西に限られる。」とのこと。
 写真のものはフジと判断した。「花の穂が短い、花数も少ない」点ではヤマフジだが、「穂の上の方から順次花が開く」点ではフジ。20年ほど前、職場の庭にフジがあり、同じ頃、知人の家にもフジがあり、今回の従姉の庭のフジも含めて、私が沖縄で見たフジはどれも「花の穂が短い、花数も少ない」。沖縄の気候に合わないのだろう。
 長い穂を垂れ下げてたくさんの花をつける。倭国の公園などでは、藤棚(棚仕立てにしたもの)もよく見かける。薄紫が連なった見事な景色となる。
 花色は一般に紫。白花種もあるとのこと。開花期は4月から7月と文献にあるが、沖縄では3月から5月。両者共に多数の園芸品種があるとのこと。
 ツルは右巻き、他の物に絡み付いて伸びる。ちなみに、ヤマフジと言っても、特に山に生えるフジという意味ではなく、フジと区別するための名前とのこと。
 学名、フジ Wisteria floribunda DC.
    ヤマフジ Wisteria brachybotrys Siebold et Zucc.

 花

 東京のフジ
 記:島乃ガジ丸 2009.3.15  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
inserted by FC2 system