ヒハツモドキ
 友人のKY子の家は、今は鉄筋コンクリート造り2階建ての大きな家だが、10年ほど前までは亭主の実家である瓦葺木造の平屋だった。琉球石灰岩の石垣で敷地は囲まれ、門には沖縄伝統のヒンプン(注1)は無かったが、門を入って左手にある家は、軒と縁側のある沖縄の昔風の造り。その反対側には縁側から眺められるように庭が広がっていた。その庭はしかし、角に真竹の1株、別の一角に数坪の家庭菜園の他、塀沿いに樹木がポツンポツンとあるだけで、庭というより空地といったほうが妥当なものであった。
 庭はそんな殺風景な景色であったが、石垣はきれいで、家同様沖縄の昔風の石積み。4面あるその石垣の、建物に近い側の1面、7、8mの長さを蔓植物が這っていた。季節はいつだったか覚えていないが、訪れた時、その蔓植物には実がいっぱい付いていた。

 「あれ、何?」と訊くと
 「フィファチよ。八重山なんかではピパーチっていうけど、知らない?実が香辛料になるのよ。コショウみたいな風味のものよ。」と答えた。
 石垣島へ行き、ソバ屋へ入ると、沖縄島のソバ屋では見ない香辛料がテーブルの上に置いてある。容器にはピパーチと書いてある。沖縄では島トウガラシを材料にしたコーレーグスを沖縄ソバの薬味に用いるが、宮古八重山ではこのピパーチをよく使うらしい。
 沖縄のハ行がパ行に転じることの多い八重山言葉ではピパーチ、沖縄言葉ではフィファチという名前、そのまま倭語に訳するとヒハツとなる。
     
 シマヤマヒハツという植物を、街路樹や民家の庭でよく見かける。この植物にもフィファチのように実が付く。私はこれがフィファチのことだと思っていたが、先日、シマヤマヒハツの実をじっくりと見ることができ、写真も撮って、調べることができた。
 友人のKY子の家のフィファチは蔓性で、こっちの方は木立である。実も葉も見た目違うし、方言名もシマヤマヒハツはアワグミとあった。全然違う植物だったのだ。しかし、そのお陰で、古い家の、古い石垣の風情のある景色を思い出し、美人とは言えないが、すごく魅力的なKY子の顔も目に浮かんだ。久々にメールを送ろう、と思ったのであった。
 注1、ヒンプン:屏風と書く。門と母屋との間に設けられる仕切り壁。

 ヒハツモドキ(畢撥擬):地被・壁面緑化・香辛料
 コショウ科の常緑蔓植物 原産分布はジャワ、スマトラ、タイ 方言名:ヒハチ他
 茎から気根を出し、壁面に吸着するので、石垣に限らすコンクリートブロック塀などの壁面緑化に使える。野趣のある景色となる。方言名は他にフィファチ ピパーツ。
 上述の通り、熟した種子を粉末にして香辛料として利用する。山羊料理や豚料理の調味料、沖縄ソバの薬味となる。新芽は香料として料理に用いると文献にあるが、これは私の経験には無い。別名ジャワナガコショウ。結実期は8月から10月。

 実
 記:島乃ガジ丸 2005.3.7  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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