アメリカハマグルマ
 親友のHは、同級生の仲間内では最も早くマイホームを建てた。敷地は盆地から丘へ上る途中の斜面にあり、盆地側の境界には高さ3mほどの擁壁(ヨウヘキと読む。土留めの壁のこと)が設けられ、隣地とは垂直にその分の段差がある。敷地の4方向の1面がその擁壁、他の2面は公道からの進入路と、ほぼ同じレベルにある隣家、残りの1面は2mから4mの幅の庭を隔てて、削り残された斜面となっている。斜面から向こうは原野のままであり、多くの樹木と雑草に覆われ鬱蒼としていた。
 家を建ててから2、3年後のある日、
 「ハブが出そうで怖いので、斜面の雑草を何とかして。」とHの女房E子に頼まれた。見に行くと、雑草はススキが多くあった。ススキは株が太く、その根は大きく深く固い。数も多いので人力で除草するには相当の労力を要する。ほぼ1日がかりで、体重2kg減の仕事量となりそうであった。で、楽な方法を選ぶ。斜面全体に除草剤を撒いてやった。
 それからしばらくして、また電話があり、
 「除草はうまくいったけど、草がなくなったせいで、この間の大雨で崖が崩れた。このままだと、どんどん崩れていきそう。何とかして」と言う。見に行くと、枯れたススキの多くが根っこごと崩れ落ちて、庭へなだれ込んでいた。確かに、このままだと大雨のたんびに斜面の土砂が崩れて、庭が埋まってしまうことになりそうであった。
 それから数日後、ウエデリアの苗木40鉢ばかりを斜面に植えた。ウエデリアは順調に生育し、約1年後には斜面全体を覆った。これで土砂崩れの心配は無くなった。その日、ウエデリアは黄色い花を斜面いっぱいにきれいに咲かせてもいた。「これでどうじゃ」と言うと、Hは満足そうに肯き、E子も「花がきれいね」と喜んでくれた。

 それから数ヶ月後、またもE子から電話。
 「あんたが斜面に植えた黄色い花の蔓、あれダメ。どんどん伸びて庭にまで入り込んできて邪魔になっている。何とかして」とのこと。まったく、注文の多いオバサンなのである。雑草が蔓延るのも、土砂が崩れるのも防いでくれ、その上花まで見せてくれるのだ。こんな条件の良い植物にさらに、庭まで来たら成長を止めろ、と注文をつけるのか。
 「生きているんだから伸びるのは当たり前だろう。邪魔な部分は刈り取りゃいいだろう!そのくらいの運動は自分でせい!」とピシャリ言ってやった。(動かないから痩せないだ)という言葉は飲み込んだ。電話の向こうで「そうだね」と小さい声が聞えた。しばらくしてH邸を訪ねると、ウエデリアは庭の手前できれいに刈り込まれていた。元々働き者のE子、やる気になればさっさとやる。「きれいにできているじゃないか」と誉めると、「まあね、こんなの軽いものよ」と言ってカッカッカと大声で笑った。(しかし、そうやって体動かしても、ちっとも痩せないね)という言葉は飲み込んで、私も一緒に笑った。

 アメリカハマグルマ(亜米利加浜車):法面・地被
 キク科の多年生蔓植物 原産分布は熱帯アメリカ 方言名:無し
 ウエデリアの方が短くて言いやすいせいか、アメリカハマグルマよりはウエデリアという名をよく耳にする。ウエデリアは学名。キク科ウエデリア属となっている。
 匍匐するように伸びた枝の節々から次々と根を出し地面を覆うため、上述のように法面の土砂流出防止に役立つが、生育が旺盛で、広がりを一定範囲内におさめるためには年に2、3回の刈込みを要する。陽光地を好むが、半日陰でも育つし、乾燥にも、潮風にも強い丈夫な植物。日当たりの良いところでは花つきが良い。
 キクに似た鮮やかな黄色の花は長い期間咲き続ける。開花期は3月から12月。
 導入は新しく昭和50年頃とある。沖縄の自生種にキダチハマグルマという種があるらしいが、私はまだ見たことが無い。あるいは、海岸地帯に自生しているらしいので、キャンプのときに見てはいるかもしれないが、少なくとも気付いていない。
 ハマグルマはキク科の多年草で日本に自生している。広辞苑に別称としてネコノシタとある。葉の表面がザラザラしていて猫の舌に似ているかららしい。触ってみたいものだ。ハマグルマという名は、花の形が昔の牛車などの車を連想させることかららしい。

 花
 記:2005.5.9 ガジ丸  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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