アマミヅタ
 今でもあるのかどうか確認していないので不明だが、実家の近くに、まるで少女マンガの中に描かれるような蔦の絡まる屋敷があった。お屋敷には執事がいて、美少年が住んでいそう。そんなのが女の子は大好きだろう。が、私はあまり好きでは無い。
 子供の頃、家の隣に貸家があって、その貸家のちょっとした庭にブドウが植えられていた。貸家には伯母が住んでいて、その部屋に私もたびたび遊びに行った。
 伯母の部屋は小さな台所と6畳一間。6畳は畳間で、小さな卓袱台が一つと、奥の窓の傍にシングルベッドあった。伯母は仕事に出るときも部屋に鍵をかけなかったので、私は伯母の留守中にその部屋で過ごすことも多かった。
 ある日、伯母のベッドで昼寝していると、手や顔がムズムズするのを感じて目が覚めた。顔に手をやるとムニュとした感触のものがあった。手に取って、見た。その頃、私はまだ10歳かそこらだったので、感情を素直に表現できた。
 「ギャー!(正確には”あ”に濁点みたいな声)」と叫んだ。それは、私の手の平の長さを上回るほどの何とも大きな青虫であった。その青虫がベッドの上に無数にいた。無数というのは大げさな表現だが、10匹ほどであったとしても、あんまり大きくて気味が悪いので、無数といっても言い足りないくらいのものだったのだ。

 アマミヅタを見ると、その時の記憶が蘇るのだが、アマミヅタもブドウ科の植物で、何となしにブドウと似ている。ブドウにつくのと同じガの幼虫の食草となっていると文献にある。同じブドウ科のヤブカラシに大きな青虫がついているのを見た。今では青虫に触るのは平気なんだが、とはいっても、寝ている間に顔にへばりつかれるのは好まない。

 アマミヅタ(奄美蔦):壁面・法面
 ブドウ科の落葉蔓性木本 原産分布は奄美以南 方言名:キレルカヅラ(奄美)
 気根に吸盤があって壁に吸着し広がる。深い緑色の葉が壁面を覆って、ヨーロッパの古いお屋敷の壁みたいになる。亜熱帯の沖縄で秋の紅葉の景色は珍しいのだが、本種は、あまりきれいとは思わないが一応、紅葉する。秋に紅葉し、冬に落葉し、春には明るい緑色の新緑となって季節を感じることのできるツタとなっている。
 成長が速いので、壁面を覆うのもそう時間はかからない。陽光地を好み、そういった好環境では、春になって伸び始めたツルもグングン広がって行く。法面緑化にも適する。
 記:島乃ガジ丸 2005.8.30  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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