トクサ
 もう15年ほど前になるか、趣味で木工をやっていた。家具らしきものをいくつか作った。作品は実家、職場、馴染みの喫茶店、友人の家などにまだ残っている。
 趣味の木工だが、私はどちらかというと短期集中型性格なので、やっている間の数年の間は、木工の勉強に多くの時間を費やし、たくさんの本を読んだ。そこから目指したのは環境に優しい木工であった。燃やしても、土に埋めても環境を汚染しない塗料や接着剤を調べ、それらを使った。塗料は柿渋、亜麻仁油など。接着剤は膠(にかわ)で、どちらも倭国の伝統的な材。倭人は元々、環境に優しい人種なのである。
 鉋で木材を削る。上手な人が削るとその鉋くずは、向こうが透けて見えるほどに薄い。そうやって削られた木材の表面はスベスベである。ところが、素人の私が削ると、鉋くずは厚く一様で無い。木材の表面もさほどスベスベにはならない。そのような木材は鉋で削った後にサンドペーパーなどで研磨する必要がある。鉋の下手な私はサンドペーパー作業の時間が長かった。木工家のMさんに「ペーパー王」と揶揄されたほどであった。
 サンドペーパーで木材を研磨する際、細かい粉が多く出る。粉には削られる木材側のものと、削るペーパー側のものとが含まれている。木材側の粉は何でもないが、サンドペーパー側の研磨材は環境に悪いのではないかと、ある日思った。で、環境に悪くない研磨材はないかと調べた。・・・あった。トクサである。トクサは倭国に自生するシダ植物。その茎が研磨材になるとのこと。天然の研磨材、これも倭国伝統のもの。
 ところが、これが、沖縄では手に入らなかった。植物そのものが沖縄に自生が無いのであった。さらにところが、木工を止めて数年後に、知人の家の庭で発見する。

 トクサとは葉がシソの葉くらいの大きさで、その表面がザラザラしているものと想像していた私は、茎ばかりのように見えるそれを初めフトイ(カヤツリグサ科の多年草)かと思った。「トクサ」と聞いてちょっとビックリしたのであった。
 「あー、これがトクサであったか」と感激もしたが、短期集中型性格の私は、つまり、熱しやすく冷めやすい私は、もう既に木工に興味を失くしていたのであった。

 トクサ(木賊):添景
 トクサ科の常緑シダ植物 北海道から本州中部以北に分布 方言名:なし 
 『名前といわれ野の草花図鑑』には、漢字は砥草があてられ、砥ぐ草の意味とあった。「ざらざらしたかたい茎をゆでて、乾燥させたもの」を使うとのこと。「トクサの皮には多量の珪酸が含まれており、これが研磨の役となる」とのこと。
 茎が分枝せずに、にょきにょきと伸びている。よく見かける他のシダ植物とは見た目違うので、今回調べるまでシダ植物とは思わなかった。地上に伸びているのは茎だけに見えるが、小さな葉がついている。根茎は地下を這い、横に広がり増えていく。
 草丈は50〜100センチほど。やや湿ったところに生える。シダ植物なので胞子で増える。胞子穂の時期は9〜10月。沖縄には分布しないが、知人の庭に育っている。

 北海道産
 記:島乃ガジ丸 2006.12.5  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
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