チトセラン
 アパートの隣の部屋に以前住んでいたAさんは、高校生と中学生の娘を持つ働き者のバツイチお母さん。ある年、マイナスイオンがどうのこうのと話題になった時に、
 「トラノオって手に入る?」と訊かれたので、
 「いくらでもあるよ。少しくらいならタダで持って来られるよ」と応えたら
 「少しでいいよ。鉢植えにするから持ってきて」と頼まれた。
 アパートの畑は、約3畳ほどの広さずつ5区画に分けられている。アパートの4世帯分と、残りの1区画は大家のとこの婆さんの分だ。婆さんは数年前から入院しているので、それ以来、婆さんの分の区画は私が担当している。隣のAさんも1区画を管理していた。
 数日後、職場からトラノオを持ち帰った私はAさんに
 「トラノオ、どうしようか。鉢植えにするならすぐがいいよ」と訊いた。
 「今、忙しいから、私の畑に植えておいて」と言うので、そうした。
 さて、それから1年過ぎてもトラノオは畑に残されたまま。ブームが過ぎ去るのは早いようで、Aさんの頭の中では既にトラノオは過去のもの。テレビ番組の「あるある」やら「ガッテン」やらで次々と紹介される新たな健康グッズに関心は行ったようだ。トラノオはすっかり忘れ去られたまま、暫くしてAさん一家は越していった。
     
 先日、久々に畑に入って、元Aさんの担当であった区画も覗く。トラノオはカンナの大株に覆われて見えなくなっていたが、掻き分けるとちゃんと残っていた。しかも増えていた。ぜひにと請われて、仲間と引き離されてまでやってきた新天地で、主の関心はほんの一時であったために見放されて、捨てられたというのに、なんとも健気な奴であった。

 チトセラン(千歳蘭):生垣、根締め、観葉植物
 リュウケツジュ科の多年草 原産分布は熱帯アフリカ 方言名:トゥラヌジュ
 『新緑化樹木のしおり』にはユリ科とあったが、これは間違いで、『沖縄の都市緑化植物図鑑』のリュウゼツラン科が正しかろう、と思ったのだが、ネットで確認すると、今はリュウケツジュ科に分類されているとのこと。リュウケツジュ科サンセベリア属となる。リュウケツジュ科には他に、コルディリネ属、ドラセナ属、トックリラン属などがある。
 日本でも古くから栽培されており、千歳蘭という和名もよく知られている。が、今はサンセベリアという名前の方が通っているかもしれない。別名をトラノオ(虎の尾)と言うが、これは見た目から。広辞苑によると、トラノオ(虎の尾)と呼ばれている植物は別にあって、オカトラノオ(サクラソウ科オカトラノオ属)、ルリトラノオ(ゴマノハグサ科ベロニカ属)、ハナトラノオ(シソ科ハナトラノオ属)など。しかし、沖縄でトゥラヌジュ(虎の尾)というとチトセランのことを指している。見た目が虎の尾である。
 品種にはアツバチトセラン(厚葉千歳蘭)やフクリンチトセラン(覆輪千歳蘭)などがあり、この2種をよく見かける。チトセランと言うとアツバチトセランを指すようで、写真のものはこれ。いかにもトラの尾の名にふさわしい形状をしている。

 実

 フクリンチトセラン
 記:島乃ガジ丸 2005.1.17  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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